南アルプスは延長約120km。
本邦第2位の北岳(3,193m)や3位の間ノ岳(3,190m)など3,000メートルを越える峰を13座も連ねる日本一の山脈です。
積雪の多い北アルプスでは、ハクサンコザクラといった雪田の跡などに咲く湿性の花が多いのに対して、雪が早く消える南アルプスでは乾性の花が多く見られます。
南アルプスの特徴はなんといっても固有種の多さです。
稀産種も含めると大変な数の高山植物が咲き誇ります。
とりわけ北岳周辺では、春先のキタダケソウを先頭に、キタダケキンポウゲ、キタダケヨモギ、キタダケナズナ、キタダケトリカブト、タカネマンテマ、アカイシリンドウ、サンプクリンドウといった固有種が秋口までに次から次ぎに咲いてくれます。
登山時期を2週間もずらすと、お花畑は前回とはガラッと変わったメンバーになっているのがここの特徴です。
作品の追加・変更は、随時行う予定ですので、ご了解下さい。
八本歯コル下部より北岳バットレスを望む
最終更新日;2025年4月24日
【アカバナ科】
【アブラナ科】
【オオバコ科】
【オトギリソウ科】
【キキョウ科】
【キク科】
【キンポウゲ科】
【サクラソウ科】
【シソ科】
【シュロソウ科】
【セリ科】
【タデ科】
【ツツジ科】
【ツリフネソウ科】
【ナデシコ科】
【ニシキギ科】
【ハナシノブ科】
【ハマウツボ科】
【バラ科】
【フウロソウ科】
【ベンケイソウ科】
【マメ科】
【ミズキ科】
【ムラサキ科】
【メギ科】
【ユキノシタ科】
【ユリ科】
【ラン科】
【リンドウ科】
(ここの並びは、あいうえお順)
以下の並びは、APGVに準拠。 探したい花の名前がわかっている場合は、トップページの【花の検索】から探すと全ての山のページが対象になります。
【シュロソウ科】
ミヤマバイケイソウ (シュロソウ科 シュロソウ属)
Veratrum alpestre (深山梅尅吹j
北海道の中央高地と本州中部以北の亜高山帯から高山帯下部の湿った場所に分布します。海外では朝鮮半島北部、中国東北部、サハリン、カムチャッカ半島などにも分布します。
バイケイソウ(Veratrum album subsp. oxysepalum)の高山型で草丈などが全体にやや小さいものを言います。
但し、両者は同じもの、若しくはバイケイソウの生態型(同種の生物で生息環境に適応し、異なる形質が遺伝的に固定されてできた型)か、コバイケイソウとの中間雑種とする考え方もあります。
北岳山荘付近で撮影した株なので高度的にミヤマバイケイソウとしておきます。バイケイソウの名前の由来は、コバイケイソウのページをご参照下さい。
同じような環境に生育し、似た形の植物にタカネアオヤギソウがありますが、タカネアオヤギソウは葉が細いので区別が出来ます。
【ユリ科】
オオバタケシマラン (ユリ科 タケシマラン属)
Streptopus amplexifolius var. papillatus (大葉竹縞蘭)
北海道と本州中部以北や亜高山帯から高山帯の林内に生育する多年草です。海外では、朝鮮半島、サハリン、アムール、カムチャッカ半島、シベリア東部に分布します。
残念ながら花の写真はありませんが、花被片は平開して反り返るので錨のような小さな花を葉腋から1個ずつぶら下げて咲きます。
葉裏に咲く小さな花なので、下から見上げないと花期には見落としがちですが、秋になると赤く熟すので良く目立ちます。
タケシマランやヒメタケシマランなど似た仲間が沢山ありますが、見分けるポイントは花柄の途中に関節があり、ねじれて花を咲かせることです。この「ねじれ」は写真のように実になっても残ります。
縞の入った葉の形や、茎の節の様子が竹に似ていることからこの名前があります。尚、ランの名前がついたユリ科植物には、他にもスズラン(Convallaria majalis var. manshurica)などがあります。
【ラン科】
ホテイラン (ラン科 ホテイラン属)
Calypso bulbosa var. speciosa (布袋蘭)
中部山岳の標高1600mくらいの亜高山帯の樹林の林床に生育するランです。海外には分布しません。変わった形をしていることから山草家と呼ばれる盗掘者たちに狙われ、絶滅の危機にあります。
根本に1枚だけの大きな葉をつけ、一輪だけ花を咲かせます。花には袋状の唇弁と蟹の爪のような距があります。
なかなか出逢えることが出来なかった花で、薄暗い針葉樹の林の中で、ひっそりと咲いているこの花を見つけた時の感動は今でも覚えています。
ホテイラン属は本種1種だけの属です。
なお、本種の基準変種になるのがヒメホテイラン(ver. bulbosa)です。国内では北海道と青森県に分布するだけですが、こちらは欧州から北アメリカまでの亜寒帯に広く分布します。
【メギ科】
サンカヨウ (メギ科 サンカヨウ属)
Diphylleia grayi (山荷葉)
北海道と本州中部以北及び大山の山地帯から亜高山帯の林縁や林内に生育します。海外ではサハリンに分布します。
針葉樹林帯の常連で、多くの山で見られます。
面白い形をした大きな葉っぱに白い花をつけた姿はお馴染みの花です。
ただし、芽生えの頃の姿を見た人は少ないでしょう。
春先、葉を折り畳んで拳のような形で出てきます。
葉が開ききらないうちに花を咲かせますので、たいへんユニークな形です。
開いた葉は、二つに裂けかかったような形をしており、属の学名もこの形に因んで2つの葉という意味です。
夏の頃には紫色の大きな実をつけます。
荷葉(かよう)とは蓮の葉のことだそうですから、山荷葉とは山に生えるハスという意味になります。
【キンポウゲ科】
キタダケトリカブト (キンポウゲ科 トリカブト属)
Aconitum kitadakense (北岳鳥兜)
北岳の高山帯に特産します。八ヶ岳にも分布すると記載した文献もありますが、私は八ヶ岳では見たことがありません。
草丈20〜30cm程度と矮小ですが、花は大きいです。
8月も中旬になると北岳のお花畑にはこの花が目立つようになります。
トリカブトの仲間ですから、高山植物といえども猛毒の植物です。
高山植物ですから触ったり採ったりする人はまずいないでしょうが。
キタザワブシ (キンポウゲ科 トリカブト属)
Aconitum nipponicum subsp. micranthum (北沢附子)
名前は北沢峠に因みます。分布は国内のみで、八ヶ岳、南アルプス、中央アルプス、木曽御嶽山、日光山地、関東山地などです。
ミヤマトリカブト(Aconitum nipponicum subsp. nipponicum ver. nipponicum)の亜種扱いです。
母種に比べて葉の切れ込みが深く、萼に屈毛があり、花柄にも屈毛が密生します。
トリカブトの塊根を乾したものは漢方薬や毒として用いられ、生薬名を附子(ぶし)といいます。
ヒメイチゲ (キンポウゲ科 イチリンソウ属)
Anemone debilis (姫一華)
本州(中部以北と奈良県大峰山)と北海道の山地から高山帯の林縁や林内に分布します。海外ではサハリン、カムチャッカ半島、ロシア沿海地方に分布します。
茎葉は3出複葉で3個が輪生します。花弁のように見えるのは萼片です。
近縁種にはエゾイチゲがあります。両者は非常によく似ていますが、両者の差は葉の幅と萼片の数です。
ヒメイチゲは葉の幅が細くて萼片が5枚、エゾイチゲは葉の幅が広くて萼片が5〜7枚あります。両者は良く似ていますが、変種や亜種の関係ではなく、独立種です。
レンゲショウマ (キンポウゲ科 レンゲショウマ属)
Anemonopsis macrophylla (蓮華升麻)
高山植物というより山の花かもしれません。
学問的に高山植物という分類が定義されているわけではありませんので勝手に入れてしまいました。
本州(岩手県〜静岡県、紀伊山地)と四国の一部の山地の樹林帯に分布します。
南アルプスの登山口の広河原では結構多く見られます。
広河原なら高度不足はなかろうと........
言い訳がましいですネ。きれいな花だから入れただけです。
樹林帯の中での撮影の上に、長い茎の先についた花は風が無くても揺れるし撮影は結構大変です。
レンゲショウマは日本特産の1属1種の植物で、海外には分布しません。花がハス(蓮)に似て、葉がサラシナショウマに似ているのでこの名前があります。
なお、蓮華とは仏教の伝来とともに中国からやってきた言葉で、蓮や睡蓮の総称です。
キタダケソウ (キンポウゲ科 ウメザキサバノオ属)
Callianthemum hondoense (北岳草)
北岳最大の固有種です。
近縁種も国内ではアポイ岳のヒダカソウと崕山のキリギシソウ(C. kirigishiense)があるのみです。
北岳のお花畑に最初に登場するのですが、この花を観るためには6月中旬の梅雨の最中に、大樺沢の雪渓を登らねばなりません。
北岳のごく限られた場所のみに咲くのですが、この花の群落を観ると辛かった登りの苦しさを忘れさせてくれます。
この花の咲く頃に登る人は滅多にいませんから、だあれもいないお花畑でゆっくりご対面できます。
登山者が増える季節にはもう葉っぱだけになって他の高山植物の陰になっています。
悲しいことに、この花も稀少であるが故に盗掘が絶えないようです。
高山植物は平地での生育はまず不可能なのですから、自生地を荒らさないことが絶対に必要です。
とりわけ、この花の自生地は世界でもたった一カ所のごく狭い場所しか与えられていないのですから。
サラシナショウマ (キンポウゲ科 サラシナショウマ属)
Cimicifuga simplex (晒菜升麻)
これも高山植物と呼ぶには高度不足の花です。北海道から九州の亜高山帯の林縁草地に生えます。海外では朝鮮半島、中国、台湾、サハリン、ロシア沿海、モンゴルに分布します。
初秋の山で良く見かけます。
2004年は花暦が例年より2週間位早く推移したような年で、お盆の休みに北岳に登った時には、白根御池小屋の周辺はこの花が盛りでした。
若菜の時に煮て晒して食べたことからこの名前があります。また、根茎を乾燥させたものが漢方薬の升麻です。
ラテン語の属名はトコジラミ(南京虫)に由来し、かつてはトコジラミの忌避剤として用いられたそうです。
キタダケキンポウゲ (キンポウゲ科 キンポウゲ属)
Ranunculus kitadakeanus (北岳金鳳花)
南アルプスの北岳から間ノ岳にかけての稜線のみに分布する固有種です。
この花を狙って花期に登ったこともあるのですが見られませんでした。
皮肉なもので別の花を撮る為に花期を少し過ぎて登った時に初めて出会えました。小さくて目立たないので、色々な高山植物が咲き誇る北岳のお花畑では、他の花に気が取られて気付かなかったようです。
写真のものも決して掲載できるようなものではありませんが、固有種ということで掲載しています。
拡大してあるので大きく見えますが、普通のミヤマキンポウゲよりも株はずっと小さく、花径も約1cm程度とミヤマキンポウゲの半分位です。
茎葉の切れ込みは深く柄は殆ど無く、根生葉は3つに深く切れ込んでいます。
ミヤマキンポウゲ (キンポウゲ科 キンポウゲ属)
Ranunculus acris subsp. novus (深山金鳳花)
本州(白山以北)と北海道の亜高山帯から高山帯の草地や岩礫帯に分布します。海外では、サハリン、朝鮮半島北部、中国東北部にも分布します。
高山草原の代表的な花です。
雪田周辺の斜面に黄色いカーペトを敷きつめたような大群落を作ります。
高山草原を彩る花はたくさんありますが、独特の光沢のある5弁花は印象的です。
キンポウゲの仲間は高山に多数分布しますが、日本の高山ではミヤマキンポウゲが花としては一番見応えがあります。
写真は大雪山で撮影したものですが、キタダケキンポウゲとの関連でこのページに掲載しています。
モミジカラマツ (キンポウゲ科 モミジカラマツ属)
Trautvetteria palmata var. palmata (紅葉唐松)
北海道(千島)、本州(中国・近畿以北)、四国の一部、九州の一部の亜高山帯から高山帯の湿った草地に分布し、海外には分布しません。カラマツソウ属のミヤマカラマツに似た花を咲かせますが、葉はモミジのような形状の単葉(ミヤマカラマツは複葉)です。モミジカラマツ属としてカラマツソウ属はと別の属です。本州の山では、どこでも見られますので高山植物だということすら忘れていました。最近ではカメラを向けることもなかったようで、古い写真の中から探し出しました。
日本の高山では、ありふれた花ですが、モミジカラマツ属の植物は本種を含めて世界でも2種しかない珍しい花なのです。
【ユキノシタ科】
クロクモソウ (ユキノシタ科 チシマイワブキ属)
Micranthes fusca var. kikubuki (黒雲草)
不気味な名前ですが、色が褐色なだけでこんな名前が付けられたのであれば少し可哀想です。まだ花が開花していませんが、白ければチシマイワブキです。
本州(近畿以北)と九州や四国に分布し、亜高山帯から高山帯の川沿いなど湿気の多い場所に生育するそうですが、私は南アルプスの御池小屋付近で2〜3回位しか見掛けたことがありません。海外には分布しません。
雨の日に撮影したのですが、葉が濡れて小さな虫が湧き出しているような写真となりました。
ムカゴユキノシタ (ユキノシタ科 ユキノシタ属)
Saxifraga cernua (零余子雪の下)
南アルプス、八ヶ岳及び白馬岳のみに分布します。日本では3ヶ所でしか見られませんが、世界的には周北極地方全域で見られる植物です。
高山帯の湿った岩場を好みます。
湿った場所が好きなだけあって、岩の割れ目などに嵌って咲いていることが多く、撮影し難い花のひとつです。
また、見落とし易い場所ですので、なかなかお目にかかれません。
その名の通り、葉腋に赤い色のむかごをつけ、なかなか鮮やかです。
ややアウトフォーカスになっていますが、下の方の葉はモミジのように掌状に5〜7中裂しますが、まるで切り紙細工のようで面白いです。
上部の方の葉は、3裂ないしは全縁となります。
シコタンソウ (ユキノシタ科 ユキノシタ属)
Saxifraga bronchialis subsp. funstonii var. rebunshirensis (色丹草)
本州中部以北と北海道の亜高山帯から高山帯の岩礫地、砂礫地、岩隙に分布します。国外ではサハリンに分布します。別名をレブンクモマグサといいます。
名前の由来となった色丹島にも沢山咲いているのでしょう。
右上の円内の拡大写真のように花弁の内側に細かい赤い点が散らばっているのが特徴です。
良く分枝してマット状に広がるので岩の割れ目に大きな株を作ります。
花弁の内側の赤い点には個体差があり、非常に目立つものから目立たないものまであります。
【ベンケイソウ科】
イワベンケイ (ベンケイソウ科 イワベンケイ属)
Rhodiola rosea (岩弁慶)
本州中部以北と北海道の亜高山帯から高山帯の岩場に分布します。海外ではユーラシアと北アメリカ東部の高山や寒地に分布します。
雌雄異株の多年草です。左が雄株で右が雌株です。雌株は受粉後に子房が紅くなります。
高山のお花畑の常連で、多肉質の葉に水分を蓄え、岩の割れ目などの厳しい環境にも適合しています。
この逞しい生き様を弁慶にたとえて、この和名があります。
早池峰山などの東北地方や北海道の高山には、ホソバイワベンケイが見られます。
ミヤママンネングサ (ベンケイソウ科 マンネングサ属)
Sedum japonicum subsp. japonicum var. senanense (深山万年草)
本州(近畿以北)の山地帯から高山帯の岩場に分布します。平地のメノマンネングサ(ver. japonicum)の高山変種です。狭義のメノマンネングサは日本国内のみに分布しますが、広義のメノマンネングサは欧州に広く分布します。
花の咲き始めは雄蕊が集まっていますが、最盛期には10本の長い雄蕊が広がり綿棒の先のような感じになります。
先が尖った厚肉棒状の葉が、この仲間の象徴です。写真のものは判り難いのですが、下の方の茎や葉は赤色を帯びます。
【マメ科】
イワオウギ (マメ科 イワオウギ属)
Hedysarum vicioides (岩黄耆)
本州中部以北と北海道の亜山地帯から高山帯の草地、砂礫帯、岩壁に分布します。海外では朝鮮半島北部、中国棟北部、シベリア、ウスリーに分布します。
マメ科の高山植物にはオウギの名の付くものが何種類かあります。これらの植物の葉は何れも羽状複葉で、よく似ているので花期では区別し難いのですが、花後の莢の形は大きく異なります。
写真の花は北岳で写しているので、シロウマオウギの可能性もありますが、花穂の形からイワオウギに間違いないでしょう。
漢方薬のオウギ(黄耆)に葉の形が似ているのでこの名前がありますが、漢方薬に使われる黄耆は中国などに分布するゲンゲ属のキバナオウギなどの根です。
オヤマノエンドウ (マメ科 オヤマノエンドウ属)
Oxytropis japonica ver. Japonica (御山の豌豆)
本州中部の飯豊山、北アルプス、南アルプス、八ヶ岳、木曽駒ヶ岳、御嶽山の砂礫帯や草地に分布し、海外には分布しません。
この花も高山ではよく見かける花期の長い花です。
登山シーズンになると何処かしら痛んでいます。写真のものはキタダケソウを写しに行った6月中旬に見つけた咲き始めの株です。
花後には左下の写真のような大きな莢をつけます。この莢にちなんでこの名前があります。
高山植物の名前に「オヤマ」が付くのは、他にもオヤマリンドウ、オヤマソバがあり、両者共に牧野日本植物図鑑には加賀の白山に由来することが書かれています。
しかし、オヤマノエンドウは牧野日本植物図鑑には記載がありません。私は白山には登っていませんが、色々調べてみてもオヤマノエンドウの分布範囲は中部山岳という記載か、分布場所が記載されている場合は上記だけで白山に分布するという文献が見当たらないのです。
オヤマとは何処なのでしょうか。御嶽山なのでしょうか。
大雪山にはエゾオヤマノエンドウが分布し、こちらは葉や茎の毛が長いので白く見えます。
【バラ科】
ハゴロモグサ (バラ科 ハゴロモグサ属)
Alchemilla japonica (羽衣草)
名前は優雅なのですが、見映えのしない花です。
花は小さいうえに花弁は無く、萼片しかありません。園芸植物のゼラニウムの仲間かと思わせるような葉ですが、フウロソウ科ではありません。
地味ですが結構珍しい花で、この花が見られるのは国内では北岳、白馬岳、夕張岳、崕山、南千島だけなのです。海外ではサハリンに分布します。
私も北岳で2回見ただけです。登った時期にもよるのですが、夕張岳や崕山では見たことがありません。
ハゴロモグサ属は日本では本種のみですが、北半球の亜寒帯〜温帯、高山帯に数十種分布します。
その近縁種の英名が Lady's Mantle です。聖母マリアのマントという意味だそうで、これを牧野富太郎が羽衣草と意訳して名付けたとのことです。
名前の由来を聞くと、なんだが有難いような気もしますが、やはり名前負けのようですね。
キンロバイ (バラ科 キンロバイ属)
Dasiphora fruticosa (金露梅)
分布する山は限られ国内では、南アルプス、至仏山、早池峰山、焼石山、崕山、アポイ岳、千島に分布します。海外ではサハリン、朝鮮、中国東北部、ヒマラヤなどに分布します。
亜高山帯〜高山帯の岩礫地や岩隙に生えます。北岳周辺では個体数は多く、しかも大株が多いです。
落葉低木で、鮮やかな黄色い花弁が真夏の日差しを浴びて眩しく輝きます。
5弁の花がウメに似ているので金露梅と言うのだそうです。
白花のものをギンロバイ(var. mandshurica)といいます。
私はまだ見たことがありません。
ミヤマキンバイ (バラ科 キジムシロ属)
Potentilla matsumurae var. matsumurae (深山金梅)
本州中部以北と北海道の高山帯の砂礫地、草地、雪田の周辺などに分布します。海外ではサハリンに分布します。
中部以北の日本の高山ならどこでも見られる黄色い花の代表です。花期も長いです。
大きな群落を作り、3出複葉の葉は光沢があって真夏の日差しに輝いています。
花期が長い花の宿命で、夏の登山シーズンになると枯れ花も混ざり、写真を撮るにはちょっとネといった感じになります。
こういった花は7月の初旬から中旬頃までが勝負です。
葉は3出複葉ですが、稀に5出複葉もあります。鋸歯の数や形状など個体による差異があります。
【ニシキギ科】
シラヒゲソウ (ニシキギ科 ウメバチソウ属)
Parnassia foliosa var. foliosa (白髭草)
本州、中国、九州の山地の湿地に分布します。海外では中国西部、インド北部に分布します。高山植物と呼ぶには少し高度不足かもしれませんが、写真の株は地蔵岳に至る樹林帯の中の少し湿っぽい薄暗い場所に咲いていました。葉が茎を巻く構造なとはコウメバチソウとそっくりです。花弁の縁が細かく裂けた様子を白い髭に見立てて、この名前があります。
ウメバチソウ属は、以前の分類ではユキノシタ科でしたが、APG分類ではニシキギ科に移りました。
【オトギリソウ科】
イワオトギリ (オトギリソウ科 オトギリソウ属)
Hypericum senanense subsp. mutiloides (岩弟切)
本州(中部から東北地方)の亜高山帯から高山帯に分布します。海外には分布しません。
以前はハイオトギリの変種でしたが、APG分類ではシナノオトギリの亜種として分類されます。
オトギリソウは変異の多い植物で、同じような仲間が全国に分布しますが、中部山岳ならばイワオトギリかシナノオトギリです。
オトギリソウを見分けるポイントは、葉や花弁、萼にある黒点や明点の位置です。右上円内のようにイワオトギリは葉全体に黒点が多いのに対してシナノオトギリは葉の縁に黒点があるのが最大の見分けるポイントです。
北岳周辺では両者が分布しますが、シナノオトギリの方が優勢でイワオトギリは少数です。
オトギリソウの仲間の葉や花弁、萼にある黒点については伝説があり、シナノオトギリのところで紹介しています。
【フウロソウ科】
タカネグンナイフウロ (フウロソウ科 フウロソウ属)
Geranium onoei var. onoei f. alpinum (高嶺郡内風露)
本州中部地方の亜高山帯の草地に分布し、海外には分布しません。郡内とは山梨県の富士吉田や大月地方の名称です。
御坂山系など関東や中部地方の低山に見られるグンナイフウロ(Geranium onoei var. onoei f. onoei)の高山型です。
紫がかった大きな花をやや俯きに咲かせ、盛夏の北岳高茎草原を彩ります。花柄や萼片には腺毛が密生します。
茎や葉柄には開出毛と腺毛があります。茎葉は1〜2個が互生しますが、最上部は対生します。葉は掌状に深く5〜7裂し、裂片は3出状に裂けます。
ハクサンフウロ (フウロソウ科 フウロソウ属)
Geranium yesoense var. nipponicum (白山風露)
本州中部以北の亜高山帯〜高山帯の高茎草原から高層湿原に分布し、海外には分布しません。真夏の高山の代表選手です。高山性のフウロソウとしては、中部以北のどこの高山でも見られます。
花色はピンクですが濃淡には個体差が結構あります。萼片には短い圧毛があり、花柄や小花柄には下向きの屈毛があります。
上向きに花を咲かせるのも特徴です。
茎葉は対生、時に互生し、掌状に5深裂し裂片は更に3出状に2〜3回3中裂します。縁や裏面脈上には毛があります。
【アカバナ科】
ヤナギラン (アカバナ科 ヤナギラン属)
Chamaenerion angustifolium subsp. angustifolium (柳蘭)
本州中部以北と北海道に分布します。海外でも北半球の寒地に広く分布する大型の多年草で、夏の高原を彩る花として有名です。
繁殖力も旺盛で、山火事の跡地や森林伐採地などにいち早く進入することでも知られています。
草丈も1m以上になり、長い花穂に4弁の紅紫色の花を次々と咲かせてゆきます。
鳳凰小屋の周辺には、小屋の主人が種で増やしたヤナギランが沢山咲いており、夏の山小屋らしい雰囲気を醸し出しています。
北岳周辺では、近年アジア棟北部等に分布するヒメヤナギラン(キタダケヤナギラン、 C. Iatifolium)が確認されたとのことです。
次回登る時は、たかがヤナギランと軽く見ないでしっかりと観察して来なければ......。
【アブラナ科】
ヤマガラシ (アブラナ科 マヤガラシ属)
Barbarea orthoceras (山芥子)
北海道と本州中部以北及び四国の山地帯から高山帯の湿った場所に分布します。海外では朝鮮半島、台湾、中国東北部、モンゴル、シベリア、北アメリカなどにも分布します。
別名がミヤマガラシです。アブラナ科の高山植物は沢山ありますが、日本の高山に咲くアブラナ科の花は殆どが白色の花で黄色の花は本種とナンブイヌナズナだけです。
ナンブイヌナズナは、早池峰山、夕張岳、戸蔦別岳の蛇紋岩地帯にのみ分布しますから、これ以外の山で黄色いアブラナ科の花を見掛けたらヤマガラシです。
私は、早池峰山で両者が一緒に咲いているのを見掛けたことがありますが、ナンブイヌナズナの方が、花が大きいので間違うことはありません。
ミヤマタネツケバナ (アブラナ科 タネツケバナ属)
Cardamine nipponica (深山種漬花)
本州中部以北及び北海道の高山で、やや湿った砂礫地や岩隙に分布し、海外には分布しません。
サンショウの葉のような羽状複葉で小葉は1〜3対あります。
アブラナ科の花は白の4弁が普通で、花だけでは区別が出来ませんが、ミヤマタネツケバナだけは葉を見れば直ぐに判ります。
岩隙が好みのようで、登山道の石ころの間の隙間に生えて上部を踏みつけられながらも懸命に生きています。
平地に生えるタネツケバナ(C. occulta)の高山変種のような名前ですが、全く別の植物です。「種漬け」というのは、苗代にする種籾を水につける作業のことで、この作業をする頃に咲くのでこの名前があります。
シロウマナズナ (アブラナ科 イヌナズナ属)
Draba shiroumana (白馬薺)
北アルプス(白馬山系)と南アルプス(北岳、間ノ岳、農鳥岳、荒川岳、赤石岳)の高山帯の岩礫帯に分布します。海外には分布しません。
根性葉は、狭倒披針形で全縁又は1〜2対の突起状の鋸歯があり、縁だけに単純毛があります。また茎が無毛なのも特徴です。
北岳でナズナの仲間を撮ると言えば、どうしてもキタダケナズナに注目しがちです。キタダケナズナ以外のナズナは写真も碌に撮らなかったようで、今思えば良い写真が無いのが実情です。
キタダケナズナ (アブラナ科 イヌナズナ属)
Draba kitadakensis (北岳薺)
南アルプス(北岳、仙丈岳、荒川岳)と八ヶ岳に特産します。別名をハクホウナズナ(白鳳薺)ともいいます。高山帯の岩礫帯や岩隙に生えます。
固体数は結構少なく、北岳には何回も登っていますが、1度きりで、しかもこの1株しか見たことがありません。「そのうちまた見られるさ」と思っているうちに歳をとってしまい、もう見られないかなと思うと寂しくなりました。
高山性だけあって花はかなり大きいですが、ナズナとしか言いようのない花を咲かせます。
根生葉は線状倒披針形で縁は全縁、茎葉は披針形〜卵形で全縁又は1〜2対の突起状の鋸歯があります。
また、茎や葉に星状毛が密生しますので、葉が白っぽく見えます。
【タデ科】
オンタデ (タデ科 オンタデ属)
Aconogonon weyrichii var. alpinum (御蓼)
別名をイワタデと言います。本州の中部以北と北海道(大雪山、千島)の高山帯に分布します。海外ではカムチャッカ半島に分布します。
ウラジロタデ(var. weyrichii)の変種で、両者は良く似ていますが、右上の円内の写真のようにオンタデには葉の裏面に白い綿毛がないので、葉の裏が緑色に見えるのが特徴です。
なお、南アルプスと中央アルプスにはウラジロタデが分布しないので、南アルプスや中央アルプスで同じような花を見たらオンタデです。
同じオンタデ属のヒメイワタデ(Aconogonon ajanense)が雌雄同株なのに対してオンタデは雌雄異株の植物です。
花のように見えるのは萼です。左下の円内は雌株の痩果で赤みを帯びています。
木曽の御嶽山で発見されたのが名前の由来です。
ムカゴトラノオ (タデ科 イブキトラノオ属)
Bistorta vivipara (零余子虎の尾)
北海道の中央高地と本州中部以北の亜高山帯から高山帯の草地や岩礫帯に分布します。海外では北半球に広く分布します。
イブキトラノオ(参照;エゾイブキトラノオ)の仲間の中では花序が細いです。
ムカゴユキノシタのように名称に「むかご」が付く植物は葉腋に「むかご」がつく場合が多いのですが、この花は花序の下の部分が「むかご」になるのだそうです。
花穂の拡大写真を見ると花には雌蕊も雄蕊もありますが、「むかご」で増えるせいなのか、普通は結実しないそうです。花穂の拡大写真は八ヶ岳で撮影したものです。
エゾイブキトラノオ (タデ科 イブキトラノオ属)
Bistorta officinalis subsp. pacifica (伊吹虎の尾)
北海道〜本州(白山以東)の山地から高山帯の草地に群生します。大群落となると日当たりの良い高山の草原です。海外ではサハリンからロシア沿海地方にかけて分布します。
この写真は以前イブキトラノオ(subsp. japonica)として紹介していましたが、最近の分類ではイブキトラノオとエゾイブキトラノオの両者を区別するようですのでエゾイブキトラノオとして改めて紹介します。イブキトラノオは本州(関東以西の太平洋側)〜九州に分布します。
エゾイブキトラノオはイブキトラノオより全体に大型です。草丈は30〜100pとなり、草丈20〜80cmのイブキトラノオよりも高くなります。また根出葉が大きく、花穂が太いことも特徴です。
タデ科の花は見映えがしないのであまりカメラを向けません。特に本種のようにどこの山でも見られるとなると殊更です。こんな花は風景と一緒に撮るに限ります。背景の稜線は鳳凰三山です。早池峰山には、ナンブトラノオが特産します。
【ナデシコ科】
タカネナデシコ (ナデシコ科 ナデシコ属)
Dianthus superbus var. speciosus> (高嶺撫子)
野山に咲く秋の七草のナデシコは正しくはカワラナデシコ(ver. longicalycinus)と言います。本州中部以北と北海道の高山帯の岩礫などに分布するのがタカネナデシコです。海外では朝鮮半島、中国東北部、ヨーロッパに分布します。
岩場でピンク色の花は結構目立ちます。
何種類かの変種がありますが、見分けるポイントは苞の形状です。タカネナデシコは、苞が2対あって細長いのが特徴です。
なお、基準変種が北海道などの海岸草原に分布するエゾカワラナデシコです。
前回更新した写真が古い写真で色が褪せていたので、 デジタル画像の写真に差し替えました。
タカネツメクサ (ナデシコ科 タカネツメクサ属)
Minuartia arctica var. hondoensis (高嶺爪草)
中部山岳と飯豊山地の高山帯の砂礫地や岩場に分布し、海外には分布しません。
乾いた環境を好み、よく分岐してマット状に広がり大株になります。たくさんの白い花を一面に咲かせます。
花弁の幅には結構個体差があります。
左の写真のものは大株ですが花弁は細い方です。このタイプのものが多く、花弁の間から萼が見えます。
中には右の写真のように花弁の幅が左のものより2倍以上あって花弁同士がくっつき合って、萼が殆ど見えない株もあります。
タカネツメクサの仲間の高山植物は同じ様な姿をしているので、見分けるのに苦労をします。タカネツメクサは近縁のミヤマツメクサと良く似ていますが、両者の違いは葉の太さです。タカネツメクサは葉に1脈あるだけなので幅が約0.5〜0.8mmの細い葉ですが、ミヤマツメクサは葉に3脈あり幅も約1〜1.5mmとやや広いことが特徴です。
北海道には基準変種のエゾタカネツメクサが分布します。
センジュガンピ (ナデシコ科 マンテマ属)
Silene gracillima (千手岩菲)
本州の中部と北部の山地帯から亜高山帯の林縁や林内に分布し、海外には分布しません。花弁の縁がギザギザになっているのが特徴です。単純なギザギザではなく、先が浅く2裂し、裂片は更に浅く裂けます。この裂け方は、ミヤマミミナグサなどナデシコ科では良く見られます。
日光の中禅寺湖畔の「千手ヶ原」で見つけられたことと、花の形が中国から渡来した園芸植物のガンピ(岩菲: S. coronata)に似ていることから、この名前があります。
なお、ジンチョウゲ科に同じガンピ(雁皮:Diplomorpha sikokiana)という名前の植物がありますが、これは和紙の原料になる全く別の植物です。
以前はセンノウ属でしたが、現在ではセンノウ属はマンテマ属に含まれました。
タカネマンテマ (ナデシコ科 マンテマ属)
Silene uralensis (高嶺マンテマ)
面白い形をしていますが、南アルプスのみで見られるタカネマンテマです。南アルプスには良く行きましたが北岳周辺で稀にしか見掛けません。
この植物の俵のような部分は萼です。写真の株は花期も終わりに近いもので、一番高い茎のものには実がつき始めています。
一番右の茎のものは花をつけていますが、判り難いので写真右上に花期のものを載せておきました。淡いピンクの小さな花は、まるでおちょぼ口のようで、かわいいです。
俵型の萼は、花のうちは右の茎のもののように横を向いていますが、実になると上を向きます。
海岸に生えるマンテマは江戸時代にヨーロッパからきた帰化植物ですが、タカネマンテマは純然たる在来種です。在来種のマンテマにはアポイマンテマなどがあります。
マンテマの名前の由来には諸説ありますが、良く判っていないようです。
タカネビランジ (ナデシコ科 マンテマ属)
Silene akaisialpina (高嶺ビランジ)
南アルプスの固有種です。
南アルプス北部では良く見掛けますが、この花を見るなら、お盆の頃の鳳凰三山が一番です。
この花の特徴は個体差が大きいことです。花弁の広いものや細いものや中間的なものまで変化に富みます。
花色も赤、ビンク、白と揃っています。
尤も鳳凰三山では濃い赤やピンクのものが多いです。白花は北岳周辺で見られますが数は少ないです。
右側の写真に色変わりと花弁変わりのものを集めてみました。
ビランジという名前の由来は良く判っていないようです。
【ミズキ科】
ゴゼンタチバナ (ミズキ科 ミズキ属)
Cornus canadensis (御前橘)
北海道〜本州中部以北と奈良県と愛媛県の一部に分布します。海外ではミャンマー北部、中国東北部、朝鮮半島、極東ロシア、北アメリカと広く分布します。
本来の棲み家は針葉樹林帯です。
しかしハイマツの下などのように強い風が当たらないところだとかなりの高度でも見ることが出来ます。
左の写真も稜線の小屋から下の水場に行く道端に咲いていたものです。
花弁のように見える白い4枚は苞と呼ばれる葉っぱです。
夏も終わりになると赤い実をつけ、これも美しいです。
【ツリフネソウ科】
キツリフネ (ツリフネソウ科 ツリフネソウ属)
Impatiens noli-tangere (黄釣舟)
北海道〜九州の山地のやや湿った場所に分布します。海外では東アジア、シベリア、ヨーロッパ、北アメリカに分布します。
高山植物と言うには微妙な花です。高山植物という定義はありませんから、高山植物の図鑑によっては掲載されていたり、いなかったりします。北海道から九州までの山地の湿った林の中や、渓流沿いなどに生育します。
国内には5種類ほどのツリフネソウが生育していますがが、その中では一番高度が高い場所まで分布しています。
この写真の株は、北岳の大樺沢で撮ったものです。大樺沢なら高度不足はなかろうという理由で載せることにしました。
学名を見れば、園芸植物のインパチェンスはツリフネソウの仲間ということが判ります。また、種小名のnoli-tangereは、「さわるな」の意味だそうで、熟した果実に触ると弾けて種を飛ばします。園芸植物のホウセンカもツリフネソウ科の仲間です。
【ハナシノブ科】
ミヤマハナシノブ (ハナシノブ科 ハナシノブ属)
Polemonium caeruleum subsp. yezoense var. nipponicum (深山花忍)
北岳の高茎草原帯では非常にたくさん咲いており、高茎草原の主役となっていますが、北岳と北アルプス清水岳のみに特産する稀産の花です。海外には分布しません。
瑠璃紫の花と黄色い葯の取り合わせが大変に美しいです。
この美しい花を茎の先にかためてつけて、大樺沢の雪渓の端にたたずむ姿は北岳ならではの絶景です。
北海道には近縁のカラフトハナシノブが、礼文島にはレブンハナシノブが分布します。
【サクラソウ科】
ツマトリソウ (サクラソウ科 オカトラノオ属)
Lysimachia europaea var. europaea (褄取草)
北海道、本州(中部以北)、四国の亜高山帯から高山帯の林床に分布します。海外では北半球の亜寒帯や高山に広く分布します。
花弁の先が赤く褄とられるので褄取草の名前がありますが、開花すると殆ど判らなくなります。花冠は普通7裂します。花弁の数が7の花は少ないです。端取草と書くこともあります。
以前はツマトリソウ属として独立していましたが、APG分類ではオカトラノオ属に含まれました。
シナノコザクラ (サクラソウ科 サクラソウ属)
Primula tosaensis var. brachycarpa (信濃小桜)
イワザクラ(ver. tosaensis)の高山変種で南アルプスと関東西部の石灰岩の岩壁に特産するサクラソウです。海外には分布しません。
葉は円形、基部は心形、縁は不規則に浅く裂け、縁に不揃いの尖った歯牙があります。
生育するのは亜高山帯から山地ですが、次項で紹介するクモイコザクラと比較すれば、比較的低い場所に生えますが、それでも南アルプスでは標高1600m位の場所です。
南アルプスは山梨,長野,静岡の3県に跨がる山塊ですが、名前の通り南アルプスの長野県側の石灰岩の岩壁で良く見掛けます。
クモイコザクラ (サクラソウ科 サクラソウ属)
Primura reinii var. kitadakensis (雲居小桜)
山地に分布するコイワザクラ(var. reinii)の高山変種です。学名からだと北岳周辺のみに分布するサクラソウのよう思えますが、南アルプス、八ヶ岳と秩父の亜高山帯から高山帯の岩壁に分布するサクラソウです。海外には分布しません。
かなり以前に発行された雑誌に撮影場所が北岳という本種の写真がありました。しかし、この花が咲く頃はキタダケソウの季節で、この時期には当然北岳には登っていますが、見かけたことはありません。
基準標本は南アルプス鋸岳ですが、この花が咲く頃の鋸岳への登山は難易度が高いので、八ヶ岳で撮ろうとして何回か挑戦しましたが見つかりませんでした。この写真は南アルプスの前衛山で撮影したものです。
この山でもたった一箇所の岩場で咲いているだけでした。
葉は円形〜腎円形、基部は心形、縁は浅く5〜9裂し、鋸歯は尖ります。
【ツツジ科】
ミヤマホツツジ (ツツジ科 ホツツジ属)
Elliottia bracteata (深山穂躑躅)
本州中部以北、北海道、千島(ウルップ島)の亜高山帯や高山帯の湿地の周辺や低林下に分布し、海外には分布しません。ツツジの花と言えば合弁花の代表のような花ですが、ツツジ科なのに花冠は3裂して先は強く反り返る独特な形です。この写真では真正面からなので良く判らないのですが、花柱(雌しべの柱頭と子房の間の部分)がゾウの鼻のように大きく反り返っているのも特徴です。
北岳では草すべり周辺で良く見かけるのですが、花期が合わないのか、草すべりあたりの標高だと、まだ先を急ぐ必要があるので、この花をじっくり撮ったことがないのが残念です。
ホツツジ属も日本に2種、北米に2種しかない少数派の属です。
ウラシマツツジ (ツツジ科 ウラシマツツジ属)
Arctous alpinus var. japonicus (裏縞躑躅)
本州の中部以北から北海道の高山帯の草地や礫地に分布します。海外ではカムチャッカ半島、サハリン、朝鮮半島北部にも分布します。ウラシマツツジ属は北半球の寒地や高山に4〜5種分布しますが、日本には本種のみが分布します。
花期は大変に早くて6月に他の花に先駆けて咲きます。
実際の花はサムネイルの写真よりも小さいです。
この花が主役になるのは秋です。
それこそ火のように真っ赤に紅葉します。
右側は大雪山で撮影した紅葉の写真です。
名前の由来は、葉脈に沿った窪みが葉の裏で顕著なので裏縞躑躅と言うのだそうです。俗説に花が浦島太郎の釣りの魚籠に似ていることから浦島躑躅とする説がありますが、個人的にはこちらの由来の方が好きです。
コケモモ (ツツジ科 スノキ属)
Vaccinium vitis-idaea (苔桃)
北海道から本州中部以北の亜高山帯から高山帯の林縁や草地や礫地などに分布し、稀に四国や九州の高山にも分布します。地域による多少の差違はありますが、近縁種を含めユーラシア大陸や北米など周北極地方全域に分布します。
ハイマツの間で光沢のある葉に囲まれて小さな釣鐘形の花を咲かせているのはお馴染みの姿です。
苔桃と書くように実は食べられ、コケモモのジャムなどがあります。
花色は白からピンクのものまであります。南アルプスでは白花が殆どで、大雪山では右下のような淡ピンクが多いです。濃い赤色もあるそうです。
クロマメノキ (ツツジ科 スノキ属)
Vaccinium uliginosum var. japonicum (黒豆の木)
円内の実の写真を見れば判るように園芸用というか食用のブルーベリーの仲間です。北海道と本州中部以北の亜高山帯の岩礫地などに生える落葉低木です。
近縁種を含めたこの仲間は北半球に広く分布し、北米の先住民族が利用していた野生種を改良したものが、現在のブルーベリーだそうです。
もちろん、クロマメノキの実も食べることができ、長野県ではアサマブドウの名で生食やジャムなどにして食べるそうです。
多分、ジャムなどにするのは栽培品でしょうが、高山の多くは国立公園内であり、国立公園内の植物採取は禁じられていますから、私は食べたことはありません。
なお、円内の実の写真は立山で撮影したものです。
【リンドウ科】
サンプクリンドウ (リンドウ科 サンプクリンドウ属)
Comastoma pulmonarium subsp. sectum (三伏竜胆)
名前は三伏峠に由来し、南アルプスの中央部と八ヶ岳のみに特産します。
北岳のお花畑に最後に登場する花です。サンプクリンドウとヒメセンブリの後には雪がくるだけです。
花冠の下から2/3位が筒状で、ちょっとくびれて、先っぽだけが5弁に裂けるという独特の花形です。
サンプクリンドウの仲間は北半球の主にヒマラヤから中央アジアに15種が分布しますが、日本で見られる唯一の種です。
右は、シロバナサンプクリンドウ(f. albiflorum)です。サンプクリンドウの白花は結構多いです。
トウヤクリンドウ (リンドウ科 リンドウ属)
Gentiana algida (当薬竜胆)
本州中部以北と北海道の高山帯の砂礫地や風衝地などに分布します。海外では朝鮮半島、中国、シベリア、極東ロシア、北アメリカに分布します。
気難しい花で、ちょっとでも曇っているとすぐに花を閉じてしまいます。
アサガオの蕾のようにねじれて閉じていた花が開き始めたところです。
8月から咲き出しますが花期は長いほうです。
当薬竜胆と書きます。根に苦味の成分があり薬(当薬)として用いられたことから、この名前があります。大雪山のものはやや矮性ながら花がやや大きくて、クモイリンドウ(ver. igarashii)として別種とする見解もあります。
花にある斑点の色は、淡い緑色から殆ど黒に近いものまで変化に富みます。
アカイシリンドウ (リンドウ科 チチブリンドウ属)
Gentianopsis yabei var. akaisiensis (赤石竜胆)
南アルプス(地蔵岳、仙丈岳、北岳、荒川岳、千枚岳)と日光の女峰山の高山帯の草地に特産します。
北岳周辺には白花品のシロバナアカイシリンドウ(f. albiflora)が分布するそうですが、私は見掛けたことがありません。
南アルプスの正式名称は赤石山脈なのですよネ。
南アルプスには何回も登っていますが、赤石岳にはまだ登っていないなあ。
赤石岳は南アルプスの標高順では、北岳、間ノ岳、悪沢岳に次いで4位です。高さで一番でもない山がどうして山脈の名称になっているのだろう。
花の話とは全く関係ないですネ。
北アルプスには基準変種であるシロウマリンドウ(Gentianopsis yabei ver. yabei)が分布します。こちらの花色は白です。
ヒメセンブリ (リンドウ科 ヒメセンブリ属)
Lomatogonium carinthiacum (姫千振)
南アルプスと八ヶ岳の高山帯の草地のみに特産します。ヒメセンブリ属の植物は、ヒマラヤや欧州などの北半球に18種分布しますが、日本で見られる唯一のヒメセンブリ属の花です。
花期でもこの花の数は非常に少なく、見つけるのに苦労をしました。
この花を撮影した日は一日中歩き回って、わずか2輪に巡り会えただけでした。
文字通りの稀産種です。
太いめしべがローソクのように立っています。
アカイシリンドウとのツーショットです。
【ムラサキ科】
ミヤマムラサキ (ムラサキ科 ミヤマムラサキ属)
Eritrichium nipponicum var. nipponicum (深山紫)
中部地方の亜高山〜高山帯の岩場や砂礫帯に分布し、海外には分布しません。
淡青色の花弁と黄色の花筒の取り合わせが印象的です。
花はかたまって咲きます。また。茎や葉に剛毛があり、線状被針形の根生葉をロゼット状につけます。
ミヤマムラサキはムラサキ科の中でも最も厳しい環境に生え、写真のように高山の岩の間から顔を出して咲いている小型の株の方がこの花らしい雰囲気があります。
北海道には変種のエゾルリムラサキが分布します。
タチカメバソウ (ムラサキ科 キュウリグサ属)
Trigonotis guilielmii (立亀葉草)
本州と北海道の山地帯から高山帯下部の谷間や渓流沿いに分布します。海外には分布しません。葉が亀の甲羅に似ていることが名前の由来です。
高山植物と呼ぶには少し高度不足の花かもしれませんが、大樺沢で撮影したので高度不足はなかろうという理由で載せました。
白花が普通で稀に淡青色のものがあります。
【オオバコ科】
ミヤマクワガタ (オオバコ科 クワガタソウ属)
Veronica schmidtiana subsp. senanensis (深山鍬形)
中部山岳及び東北の月山と飯豊山地の亜高山帯から高山帯の岩礫地に分布します。海外には分布しません。
中部山岳では比較的多く見られますが、花色は淡紫色です。
ところが、北岳周辺では赤花が普通です。
小さな花ですが、かなり強い赤なので草むらの中でも結構目立ちます。
2本の雄蕊と1本の雌蕊が長く突き出し、その形が兜の鍬形に似ているのでこの名前があります。
北海道の亜高山帯や高山帯には、基準亜種のキクバクワガタが分布しています。また、本種の変種がエゾミヤマクワガタです。
ヨーロッパ原産の帰化植物で春先に道端などで淡紫色の花をつけるオオイヌノフグリ(V. persica)も本種の近縁種です。
クワガタソウ属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではオオバコ科に含められました。
クガイソウ (オオバコ科 クガイソウ属)
Veronicastrum sibiricum f. glabratum (九蓋草)
本州や北海道の山地の草地に分布します。海外ではサハリンに分布します。何段にも輪生する葉を傘に見立てて、九蓋草(九階草)といいます。
高山草原の代表的な花で、針葉樹林の縁などでも大きな株を見かけます。写真のものは、稜線近くで見かけた株で、流石にこのような場所では矮小化して背丈が低くなっています。
高山では輪生する葉が9段もあるような株は無く写真のものも精々5〜6段程度です。
長い花穂が美しいのですが、下から上に順に咲いてゆくので、花期は長い方ですが見頃は限られています。
都内の向島百花園で栽培されているグガイソウを見たことがありますが、背丈は2m近くもあり輪生する葉も9段以上はありました。しかも花穂の脇から小さな花穂が4〜5個も生えて、自然に咲いているものとは全く違った姿になっていました。高山植物を平地で栽培することは愚かな行為です。
クガイソウ属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではオオバコ科に含められました。
【シソ科】
ミソガワソウ (シソ科 イヌハッカ属)
Nepeta subsessilis (味噌川草)
北海道、本州(奈良以北)、四国の山地帯から高山帯の渓流沿いや湿った草地に分布し、海外には分布しません。
名前は、木曽川支流の味噌川で発見されたことに由来します。イヌハッカ属なので葉の裏面に腺点があって、ここから特有の香気をもつ精油成分を分泌します。この為、味噌香草とも言います。
イヌハッカ属はユーラシアから北アフリカの温帯に約250分布しますが、日本には本種とイヌハッカ(別名チクマハッカ;Nepeta cataria)が分布するだけです。但し、イヌハッカは欧州からの帰化植物ですので、日本に分布する在来種は本種のみです。
植物名にイヌがつくのは、他にもイヌタデなどの例がありますが、本物のタデ(薬味に使うヤナギタデ)に比べて辛くないとか役に立たないという意味で付けられた名前です。イヌハッカもハッカに似ているがハッカより劣るという意味です。イヌハッカの種小名のcatariaは「猫関連」の意味があり、イヌハッカの臭いは猫が好んで良く噛む草なので英語ではキャットニップと言うのだそうです。イヌハッカなのにネコに好かれる不思議な植物です。ミソガワソウの話から脱線してしまいました。
イブキジャコウソウ (シソ科 イブキジャコウソウ属)
Thymus quinquecostatus var. ibukiensis (伊吹麝香草)
高山植物の図鑑には必ず載っていますが、高山のみに分布する花ではありません。名前の由来となった伊吹山のような低山から南アルプスの高山帯まで垂直方向の分布幅は広いです。また、北海道〜九州北部までと水平方向にも広く分布します。
海外では朝鮮、サハリンにも分布します。また近縁種は北半球に広く分布します。
日当たりの良い草地や岩礫帯に生育します。
ピンク色の小花を密生させるので、まるでピンクのマットのような感じで高山の砂礫地や岩の上に広がっています。
属の学名からも判るように香辛料などに使われるタイムの仲間で、鼻を近づけると僅かに芳香があり名前の由来にもなっています。
【ハマウツボ科】
コバノコゴメグサ (ハマウツボ科 コゴメグサ属)
Euphrasia matsumurae (小葉の小米草)
コゴメグサの仲間は中部山岳では比較的多く見られるのですが、山によって細部が異なり、近縁種や変種が存在し区別が大変です。
コバノコゴメグサは、南アルプス、八ヶ岳、秩父山地、日光山地、那須山地の山地帯から高山帯の草地に分布し、海外には分布しません。
萼片が尖らないのが最大の特徴ですが、私の場合は北岳付近で撮影しましたからコバノコゴメグサで間違いないと思っています。
イネ科やカヤツリグサ科の植物に半寄生する一年草です。
コゴメグサ属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。
セリバシオガマ (ハマウツボ科 シオガマギク属)
Pedicularis keiskei (芹葉塩竈)
分布は本州中部の南アルプス、北アルプス、八ヶ岳、秩父山地の亜高山帯に限られ、針葉樹林帯の林床に分布し海外には分布しません。
葉は対生し、卵状長楕円形で羽状に全裂し、裂片はさらに羽状に中裂します。葉の形が芹に似ていることから、この名前があります。
シオガマギク属の仲間は一般に長い穂状花序に多くの花を一斉に付けるのですが、他のシオガマとは違って一斉に花をつけるということがなく、上部の葉脇に白い花を1個ずつ、ポツポツと花を咲かせます。
そんな訳で、このような寂しい写真になってしまいました。
シオガマギク属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。
トモエシオガマ (ハマウツボ科 シオガマギク属)
Pedicularis resupinata subsp. oppositifolia var. caespiosa (巴塩竈)
本州中部地方以北の亜高山帯から高山帯下部の草地に分布し、海外には分布しません。
セリバシオガマほどではありませんが、花数が少ないシオガマです。
基準変種のシオガマギク(var. oppositifolia)は、花序が長く疎らに花を咲かせるのに対して、変種である本種は花序が詰まり茎の先に花が纏まって付きます。また花がねじれているので、上から見ると巴形に見えることから、この名前があります。
葉まで美しいはずのシオガマギクの中で、本種もエゾシオガマと同様の『縁に重鋸歯があるものの葉先がやや尖り基部は切形』という地味な葉をしています。
シオガマギク属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。
エゾシオガマ (ハマウツボ科 シオガマギク属)
Pedicularis yezoensis (蝦夷塩竈)
北海道と本州の中部以北の亜高山から高山の草地に分布します。海外ではサハリンに分布します。
シオガマギク属の仲間の葉は、ミヤマシオガマのように羽状に葉が裂けるなど、美しい葉をもつ仲間が多いのが特徴です。
そこで、「葉まで美しい」を「浜で美しいのは塩竈」と洒落てシオガマになったという由来は、ミヤマシオガマをご覧下さい。
その葉まで美しいはずのシオガマギクの中で、本種の葉は縁に重鋸歯があるものの葉先がやや尖り基部は切形という地味な葉をしています。
また、花の色も赤系が多いシオガマの仲間では少数派のクリーム色です。
シオガマギク属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。
ヨツバシオガマ (ハマウツボ科 シオガマギク属)
Pedicularis japonica (四葉塩竈)
本州の中部以北に分布し北限は月山です。亜高山帯や高山帯の草地に分布し、海外には分布しません。
葉が4枚ずつ輪生するのでこの名前があります。左の写真は北岳のもので、上唇が紫紅色で他の花弁より濃く、先端が細長く伸びるものをクチバシシオガマ(f. longerostrata)という別品種して区別していたことがありましたが現在は同一種とするようです。
東北や北海道に分布するものはやや大形でエゾヨツバシオガマ(P. chamissonis)といいます。以前は本種とは変種関係にありましたが、現在は別種扱いです。礼文島に分布するものは特に大型で70〜80cm位の大きな株となりレブンシオガマとして区別することがあります。
タカネシオガマやミヤマシオガマが高山礫地に生えるのに対して、ヨツバシオガマの本来の棲み家は亜高山帯の高茎草原です。
しかし南アルプスでは高山帯でも多数見られ、高山礫地のものは高茎草原のものと比べると矮小化し草丈は10〜15cm位です。
シオガマギク属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。
タカネシオガマ (ハマウツボ科 シオガマギク属)
Pedicularis verticillata (高嶺塩竈)
本州中部以北と北海道の高山に分布すると書かれていますが、中部山岳以北で見られるのは至仏山、大雪山、千島に限られるようです。海外では北半球の寒地に広く分布します。
中部山岳では、ごく一般的で、お花畑のピンク色の代表選手です。葉も羽状に深裂し裂片には鋸歯があります。
東北ではミヤマシオガマが主役です。
南アルプスにはミヤマシオガマも分布するのですが、タカネシオガマの方が圧倒的に多いです。
写真のものは単一の大株ですが、通常はシコタンソウやハハコヨモギ等と混ざって咲いており、単一群落よりも美しい光景を作り出しています。写真右下の白い花はシコタンハコベです。
シオガマギク属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。
【キキョウ科】
ホウオウシャジン (キキョウ科 ツリガネニンジン属)
Adenophora takedae var. howozana (鳳凰沙参)
山地に生えるイワシャジン(ver. takedae)の高山変種とされ、南アルプス鳳凰三山の高山帯のみで見られる固有種です。
花はツリガネニンジンの仲間らしい形状ですが、葉は狭披針系から線形の非常に細長い形状です。
岩の割れ目などに生え、花はもとより茎や葉なども垂れ下がって咲くのが特徴です。
登った時期が悪かったのか、私が出会えたのは花数が少ないものばかりでした。
左の写真はアカヌケ沢ノ頭で写したものですが、右は鳳凰小屋の花壇に咲いていたものです。
ソバナ (キキョウ科 ツリガネニンジン属)
Adenophora remotiflora (岨菜)
本州〜九州の山地の斜面の草地に分布します。海外では朝鮮半島や中国に分布します。
亜高山帯でも見られますが、どちらかと言えば山の花でしょうか。
漢字では岨菜と書きます。岨道(山の道)に多い菜という意味だそうです。
確かに北沢峠から仙丈岳への登山道沿いにはたくさん咲いていました。
樹林帯の下で、長い茎の先に幾つも花をつけ、風に揺れている姿には味わいがあります。
菜と書く位ですから食べられ、味は癖がなく美味しいとのことです。
もっとも私は食べたことがありませんし、北沢峠付近での植物採取は勿論禁止されています。
ヒメシャジン (キキョウ科 ツリガネニンジン属)
Adenophora nikoensis (姫沙参)
本州(北陸、中部、東北)の亜高山帯から高山帯の岩礫地などに分布し、海外には分布しません。
山の天気は急に変わります。急速にガスってきた中でストロボ撮影しました。
雨まで落ちてきてレンズに水滴がついてソフトフォーカス効果がついたものとなりました。
ヒメシャジンは変異の多い植物です。右上円内の写真は萼片が全縁でミヤマシャジン(f. nipponica)と呼ばれるものです。以前は変種扱いでしたが現在では品種扱いです。区別しないという見解もあります。
また、全体写真の方の株は葉が細いので、ホソバヒメシャジン(f. linearifolia)という別品種になりますが、これも区別しないという見解もあります。
尚、ヒメシャジンの葉は互生するのが普通ですが、まれに輪生する株があります。写真の株の葉は輪生しており、珍しい株といえます。
沙参とは同属のツリガネニンジンの漢名で、ホウオウシャジンやハクサンシャジンなど高山植物には沙参の名のつく植物が幾つかあります。
チシマギキョウ (キキョウ科 ホタルブクロ属)
Campanula chamissonis (千島桔梗)
本州中部以北と北海道の高山帯の砂礫地や岩の割れ目などに分布します。海外ではサハリン、カムチャッカ半島、アラスカに分布します。
紫色の高山植物の代表選手です。
チシマギキョウと次のイワギキョウは似たような花で似たような環境に生えますが、両者は住み分けているようで、混生しているのをあまり見かけません。
南アルプスでは北岳周辺はチシマギキョウが優勢でイワギキョウは稀です。しかしながら、北岳肩の小屋付近ではチシマギキョウ優勢の中にイワギキョウを見かけることが出来ます。
北岳山頂から北岳山荘にかけての一帯ではチシマギキョウ一色です。両者は良く似ていますが、チシマギキョウの萼の形は三角形をしていることと、花冠の縁に毛が生えていることが大きな差です。
花の色は紫が普通ですが、稀に白花もあります。シロバナチシマギキョウ(f. albiflora)は八ヶ岳で撮影したものです。また、八ヶ岳のチシマギキョウは他の山のものと比べて花冠の先が若干すぼんでいるのが特徴です。
イワギキョウ (キキョウ科 ホタルブクロ属)
Campanula lasiocarpa (岩桔梗)
前種のチシマギキョウと同様、本州中部以北と北海道の高山帯の砂礫地や岩の割れ目などに分布します。海外ではサハリン、カムチャッカ半島、アラスカに分布します。
チシマギキョウとの区別の最大のポイントは萼が糸のように細いことです。花冠の縁には毛が生えていません。花もやや小ぶりです。
花の色はチシマギキョウに比べて明るい青色です。
チシマギキョウがどちらかというと横から下向きに花をつけるのに対して、イワギキョウは明るい青色の花をやや上向きにつけます。
この花の咲き方は傾向があるという程度のもので、絶対的なものではありません。
北岳周辺では稀だった本種も間ノ岳の山頂付近では優勢となります。
【キク科】
タカネヒゴタイ (キク科 トウヒレン属)
Saussurea kaimontana (高嶺平江帯)
高山に分布するトウヒレンの仲間の幾つかの種は、以前はヤハズヒゴタイ(Saussurea triptera)の高山型とされていましが、現在は夫々が別種とされています。
タカネヒゴタイは本州中部(南アルプス、八ヶ岳、富士山)の高山に分布し、海外には分布しません。3〜5個の頭花をつけるのが特徴です。
アザミのような感じですが棘はありません。
ヒゴタイ(平江帯)の名前は貝原益軒が編纂した「大和本草」に由来するそうです。但し、この植物はキク科ヒゴタイ属のヒゴタイ(Echinops setifer)で、九州や中国地方などの平地に分布して瑠璃色のボール状の大きな花を咲かせます。同じヒゴタイがつきますが、タカネヒゴタイはキク科トウヒレン属です。植物の花が五弁花だと、梅花○○や○○金梅のように外観が似た梅などの身近な植物の名前を組み込むことは良くありますが、外観が全く違う植物の名称にヒゴタイが使われたのが不思議です。
また、属の名前のトウヒレンも塔飛廉や唐飛廉などの説があります。トウヒレン属に所属する植物名には、○○トウヒレン、○○ヒゴタイ、○○アザミなどがあり、ややこしい属です。
シラネヒゴタイ (キク科 トウヒレン属)
Saussurea kaialpina (白根平江帯)
南アルプスと八ヶ岳の高山帯に特産するシラネヒゴタイです。前述したタカネヒゴタイが複数の頭花をつけるのに対して、花が大きくて単生しているのが特徴です。
以前はタカネヒゴタイとシラネヒゴタイを区別しないという見解があった為、本種をタカネヒゴタイとして紹介していましたが、現在では両者は独立種とされていますので、改めてシラネヒゴタイとして紹介致します。
とは言うものの、頭花の数の違いしか差がないことも事実です。学名も両者共に甲斐(山梨県)の山に生えているから付けられたような名前です。
ミヤマコウゾリナ (キク科 ヤナギタンポポ属)
Hieracium japonicum (深山髪剃菜)
本州中部地方以北と四国の一部の亜高山帯〜高山帯の草地に分布し、海外には分布しません。
顔剃菜のような気もするのですが、コウゾリナは漢字で書けば髪剃菜です。
葉がカミソリのような形をしているので、この名があります。
小さなタンポポのような花です。但し、タンポポは頭花が1個ですが、こちらは2〜5個はあります。
ヤナギタンポポ属は、以前はミヤマコウゾリナ属という名称で属を代表する花でもありましたが、APG分類ではヤナギタンポポ属と名称が変わりました。ミヤマコウゾリナはヤナギタンポポ属ですが、別にコウゾリナ属もあって、カンチコウゾリナという植物が属します。更には、アポイ岳にはエゾコウゾリナ(Hypochaeris crepidioides)という植物が生育しますが、
この植物はブタナ属です。何れも葉がカミソリ状なので、この名前がありますが、外観も名前も似ているので大変ややこしいです。
ミヤマタンポポ (キク科 タンポポ属)
Taraxacum alpicola (深山蒲公英)
中部山岳に分布する高山性のタンポポです。
以前の分類では、中部山岳にはミヤマタンポポ(白山、北アなど)、シロウマタンポポ(北ア、南アの一部)、ヤツガタケタンポポ(八ヶ岳、南ア)の3種類が分布すると言われていました。
ところが、最近の分類では、中部山岳帯で見られるこれらの3種は同一種とされています。
平地のタンポポも含めるとタンポポは非常に種類が多いのですが、見分けるポイントは総苞ぐらいしかありません。
昔の図鑑には、ミヤマタンポポは『外総苞片の長さは内片の1/2以上で、先は尖る』、ヤツガタケタンポポは『外総苞片の長さは内片の1/2以下で小角突起がない』、シロウマタンポポは『総苞の先にはっきりとした小角突起がある』と総苞の違いを挙げ、葉の形状についても色々書かれていたのは何だったのしょうか。
最近の分類では、総苞に対する見方も変わって統一されたミヤマタンポポは、『外総苞片の長さは総苞内片の1/3から2/3、角状突起は無いか小さい』に変わり、葉の形状についての記載も無くなり、3種のタンポポを包括するような表現に変わりました。
とは言うものの、写真の花は昔の基準に当てはめると外総苞片の長さは内片の1/2以下ですので、ヤツガタケタンポポとなります。
現在では、日本の高山や寒地に分布する在来種のタンポポは、ミヤマタンポポの他には、ユウバリタンポポ(夕張岳)、オオヒラタンポポ(大平山)、クモマタンポポ(大雪山、芦別岳など)、シコタンタンポポ(T. shikotanense;室蘭から根室の太平洋側沿岸と千島)だけになりましたので、登った山だけで、ほぼ決めても良いことになります。
尤も最近は高山帯にも外来種のセイヨウタンポポが侵入し始めています。セイヨウタンポポは外総苞を見れば簡単に判りますので、区別は容易ですが、このままだと高山帯の在来種のタンポポまでセイヨウタンポポに駆逐されてしまいそうです。
タカネコウリンカ (キク科 オカオグルマ属)
Tephroseris takedana (高嶺高輪花)
中部山岳(南アルプス、北アルプス、八ヶ岳、志賀高原、湯ノ丸山)に分布します。海外には分布しません。亜高山帯から高山帯の乾いた草原に生育します。
写真のものには殆ど毛が見られませんが、全草が白い毛で覆われているものが多いです。
濃黄色の花と黒い総苞とのコントラストの美しさがこの花の特徴です。
この花の基準標本は八ヶ岳とのことですが、登った時期にもよるのですが八ヶ岳では少なかったです。
北岳周辺ではかなりの個体数を見ることが出来ます。
オカオグルマ属は、以前の分類ではキオン属でしたが、APG分類ではオカオグルマ属として分離しました。
ミヤマアキノキリンソウ (キク科 アキノキリンソウ属)
Solidago virgaurea subsp. leiocarpa (深山秋の麒麟草)
北海道、本州(中部地方以北)、四国、九州の亜高山帯から高山帯の草地や礫地に分布します。海外ではサハリン、シベリア東部、カムチャッカ半島、中国に分布します。
秋の野山で見られるアキノキリンソウ(subsp. asiatica)とは亜種関係にあります。
都会の空き地を席巻する北米原産の帰化植物のセイタカアワダチソウ(S. altissima)もアキノキリンソウ属の仲間です。
高山草原が本来の棲み家なのでしょうが、高山帯でも見られます。
写真のものも稜線近くで撮影したもので、矮小化しています。
コガネギクという別名もあり、個人的にはこちらの名前の方が好きです。
タカネヨモギ (キク科 ヨモギ属)
Artemisia sinanensis (高嶺蓬)
本州(中部地方、東北南部)の高山帯の草地に分布します。海外には分布しません。
茎や葉は、初めは絹毛が密生していますが、花期には殆ど無毛になります。
葉は3回羽状に細かく全裂します。高山性のヨモギ属の葉は細かく裂けて表面に細かい毛が生えるものが多く白っぽく見えるのですが、本種は花期には毛が無いので青々とした葉をしています。
ヨモギの仲間な地味な花ばかりです。精々葉の形が最大の特徴です。北岳ではキタダケヨモギという目立つ役者がいるので、どうしても本種は脇役になってしまいます。
ハハコヨモギ (キク科 ヨモギ属)
Artemisia glomerata (母子蓬)
北岳では花期になるとたくさん見られるので、どこの山にもあるようですが、国内では北岳と木曽駒ヶ岳のみに分布します。海外ではカムチャッカ半島、シベリア、サハリンなどに分布します。
ヨモギの仲間ですが花が上向きに咲いてハハコグサのようなのでこの名前があります。
写真は蕾に近い状態のものです。右下の円内に開花時の写真を組み込みましたが、所詮ヨモギの花ですから開いても特に美しいという訳ではありません。
近縁種にはエゾハハコヨモギがあります。
キタダケヨモギ (キク科 ヨモギ属)
Artemisia kitadakensis (北岳蓬)
南アルプスの固有種です。アサギリソウに近い種ですが、花茎が枝分かれしないことや頭花が大きいなどの違いがあります。
葉や茎は銀色の細かい毛で覆われるので、ストロボで撮影すると、ご覧のように銀色に光って大変きれいです。
ヨモギの仲間ですから花はたいしたことはありませんが、葉は細かく羽状に裂けて美しいので、お花畑の脇役としては申し分ありません。茎が叢生するので、かなりの大株になります。
イワインチン (キク科 キク属)
Chrysanthemum rupestre (岩茵蔯)
高山植物にキク科は数ありますが、園芸植物の"菊"と同じキク属では唯一の高山植物です。
別名をインチンヨモギといいます。南アルプスから東北地方南部の高山の日当たりの良い草地や岩礫地に分布し、海外には分布しません。海岸で見られるイソギク(C. pacificum)やシオギク(C. shiwogiku)に近い種類です。
同じキク属でも園芸植物の菊が花弁状の舌状花からなる美しい花をつけるのに対して、筒状花のみから構成される地味な花をつけます。
インチン(茵蔯)とはヨモギの漢名です。カワラヨモギ(Artemisia capillaris)の頭花を乾燥させた漢方薬が茵蔯蒿(インチンコウ)です。カワラヨモギとイワインチンの葉の形が似ていることが名前の由来のようですが、カワラヨモギはヨモギ属で属が違います。
タカネヤハズハハコ (キク科 ヤマハハコ属)
Anaphalis alpicola (高嶺矢筈母子)
本州中部以北(南北アルプスと早池峰山)の高山帯の乾いた草地に分布します。海外には分布しません。アポイ岳など北海道に分布するものは全体に大型でアポイハハコ(f. robusta)として区別する見解があります。
別名タカネウスユキソウとも呼ばれますがウスユキソウの仲間ではなく、ヤマハハコの仲間です。
雌雄異株の植物で、頭花の周りの総苞片は6〜7列あり、下部の総苞は写真のように赤色を帯びるものもあります。
全部白いものも多いですが、見栄えがする赤色を帯びたものを掲載しました。
葉に柄がなく基部が茎に直接つく様子を矢筈(矢の端の弓弦を掛けるところ)に見立ててこの名前があります。
ミネウスユキソウ (キク科 ウスユキソウ属)
Leontopodium japonicum var. shiroumense (峰薄雪草)
エーデルワイスの仲間で低山に分布するウスユキソウ(ver. japonicum)の高山変種とされます。この花が分布するのは本州中部以北と書かれていますが、南ア、北ア、白山、早池峰山、岩手山、焼石岳に分布します。細部は各地で若干異なっており、基準標本は白馬岳です。海外には分布しませが、近縁種は中国やヒマラヤにも分布します。
茎葉と苞葉がほとんど同じ形をしており、ウスユキソウとの中間型もあり、個体によっては包葉に綿毛が殆どなくウスユキソウとは思えないような固体もあります。
左の写真は南アルプス北岳で撮影したもので、南アのものは茎葉や苞葉が楕円型を帯びますが、右の早池峰のものは茎葉や苞葉がくさび型です。
近縁種には、ハヤチネウスユキソウ
、オオヒラウスユキソウ、ミヤマウスユキソウ、ホソバヒナウスユキソウ、エゾウスユキソウ及びヒメウスユキソウがあります。
ウサギギク (キク科 ウサギギク属)
Arnica unalaschcensis var. tschonoskyi (兎菊)
本州中北部から北海道の高山の礫地や草地に分布します。海外ではカムチャッカ半島やアリューシャン列島に分布します。
根生するヘラ形の葉をウサギの耳に見立ててこの名前があります。
どこの高山でも見られる高山草原の代表的な花で、この花を見かけるようになると稜線まで、あとひと頑張りとなります。
登山道の脇などにも進出しているので、写真に撮り易い花です。
別名をキングルマと言い、明るい黄色の花が真夏の太陽の日差しを浴びている姿は、超ミニのヒマワリといった感じです。
北海道の高山にはエゾウサギギクが分布し、学名上はこちらの方が基準変種となっています。
エゾウサギギクは北海道の高山に、ウサギギクは本州の高山にというように明確に分布していません。エゾウサギギクは北海道に、ウサギギクは本州に多いといったところです。
一番の決め手は筒状花の筒の部分に毛が無いことだそうですが、高山植物を採取して花を分解して調べた訳ではありませんので断定出来ません。
撮影場所が南アルプスですので、ウサギギクと紹介させて頂きます。
尚、種小名のtschonoskyiは、チョウノスケソウでお馴染みの須川長之助氏に対する献名です。
ロシアの植物学者マキシモヴィッチの元で日本の植物採取に協力した同氏に因んだtschonoskyiという種小名を有する植物はウサギギクなど10種あります。
【セリ科】
ミヤマシシウド (セリ科 シシウド属)
Angelica pubescens var. matsumurae (深山猪独活)
本州の中部以北の亜高山帯から高山帯の草地や礫地に分布し、海外には分布しません。
葉は2〜3回3出複葉で、小葉は長楕円形で長さ6〜15cm、幅は細く卵状長楕円型で先がやや尖り、縁には鋸歯があります。葉柄の基部はふくらんで茎を抱きます。裏面脈上に毛があります。
周囲の植物はミヤマオトコヨモギです。
背景の稜線は北岳の東南斜面から八本歯のコル、ボーコン沢ノ頭に至る吊尾根です。
シシウドの名前の由来には山菜の独活(ウド)に似ているが、固くてイノシシ(猪)が食べるのに適しているという説と、ウドに似るが食用にならないという説があるようです。但し、似ていると言ってもウドはウコギ科、シシウドはセリ科で科が違う植物です。
ミヤマトウキ (セリ科 シシウド属)
Angelica acutiloba ver. iwatensis (深山当帰)
別名をイワテトウキ又はナンブトウキと言います。本州の中部地方(滋賀県)以北及び北海道の石狩地方以西の亜高山帯から高山帯の岩礫帯に分布し、海外には分布しません。
ミヤマトウキの下部の葉は2〜3回3出複葉で長さ10〜13cm、葉柄は膨らみ基部は茎を抱きます。頂小葉は広卵形で更に3裂します。側小葉は2裂列し裂片の先は尖り、縁には重鋸歯があります。
漢方薬の当帰は、基準変種のトウキ(ver. acutiloba)の根を乾燥させたものです。名前の由来は、この漢方薬を飲むと血の巡りが良くなって病気が早く治るので「当に(まさに)血が帰ってくる」に由来するとのことです。
基準標本は岩手県で、別名や学名からは岩手県に関連する植物のように思えますが、前述したように岩手県のみに分布する訳ではありません。私は岩手県の山は早池峰山と八幡平にしか登っていませんが、見掛けた記憶がありません。岩手山あたりに咲いているのかもしれません。
ミヤマゼンコ (セリ科 エゾノシシウド属)
Coelopleurum multisectum (深山前胡)
本州の中部以北の亜高山帯から高山帯の草地や礫地に分布し、海外には分布しません。
ミヤマゼンコの葉は3〜5回3出羽状複葉の三角状、小葉は長卵形〜卵形、長さ1〜3cm、幅0.6〜2cmで、縁には鋸歯があります。葉柄には大きな袋状の鞘があり、赤みを帯びます。
大型のセリ科の植物は高山草原のお花畑の常連ですが、何れも同じ様な形をしているので見分けるのに苦労します。
重たい植物図鑑は持って行けませんし、昔は銀塩カメラですから現代のデジカメのように何枚も写真は撮れません。葉などの特徴をメモしてくるのですが、見分けるポイントが違っていたりして同定に苦しむ植物です。
稜線は北岳の東南斜面から八本歯のコル、ボーコン沢ノ頭に至る吊尾根です。
漢方薬に用いられる前胡はシシウド属のノダケ(Angelica decursiva)や中国に分布するカワラボウフウ属の植物の根です。前胡の読みには「ゼンコ」の他に「ゼンゴ」と読む場合もあります。
タカネイブキボウフウ (セリ科 イブキボウフウ属)
Libanotis coreana var. alpicola (高嶺伊吹防風)
本州の中部山岳の亜高山帯から高山帯の草地や岩礫地に分布し、海外には分布しません。
セリ科の植物の花色は白いのが普通です。タカネイブキボウフウは主茎の花を側茎の花が囲んで咲きます。左の写真のものは主茎の花が赤で、側茎の花が白ですが、右の写真のように逆の場合もあります。右タイプの株が多いようです。セリ科の花としてはカラフルで見栄えがします。葉も羽状複葉に羽裂しており結構美しいです。
左の写真の株は側茎の花が主茎の花を完全に取り囲んで、まるでクリスマスリースのようです。
本来の生育場所は高山草原ですが、強い風が当たらない場所なら結構高い所でも見られます。この株も稜線に近い場所で撮影したもので、流石にこの付近だと草丈は低くなっています。
低山に見られるイブキボウフウ(var. coreana)の高山変種です。
ボウフウは漢方薬の防風に似ていることからこの名前があります。漢方薬に使われる防風は中国やモンゴルに分布するボウフウ属の植物で日本には分布していません。
ミヤマウイキョウ (セリ科 シラネニンジン属)
Tilingia tachiroei (深山茴香)
北海道、本州中部以北及び四国(一部)の高山の岩場や砂礫地に分布します。海外では朝鮮半島や中国東北部に分布します。
大型のものが多いセリ科の中では、小型の部類です。
セリ科の高山植物では最も高所に上がった花の一つです。
葉が細かく線状に裂けて美しいです。
漢方薬の茴香に葉の形が似ているので、この名前があります。漢方薬やフェンネルの名前で香辛料として使われるのはヨーロッパ原産のウイキョウ属の植物です。
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