利尻礼文
海に浮かぶ名峰利尻山(1,721m)を有する夢の浮島利尻島。花の浮島礼文島。ここでは、ミヤマオダマキ、イワベンケイ、ハクサンチドリ、ミヤマキバイといった中部山岳では2,000mを越えないと見られない高山植物が海岸線付近でも沢山見られます。 又、「リシリ」、「レブン」の名を冠する固有種の多いことでも知られています。
固有種が多いので、全ての花を見る為には、季節を変えてあと何回か足を運ばなくてなりません。
尚、礼文町のホームページには、礼文島の美しい植物写真が沢山掲載(礼文島植物図鑑)されておりますので、是非ご覧下さい。

作品の追加、変更は随時行う予定ですので、ご了解下さい。
礼文島・香深港より利尻山を望む
最終更新日;2025年4月24日

【アブラナ科】 【オオバコ科】 【キク科】 【キンポウゲ科】 【クサスギカズラ科】 【ケシ科】 【サクラソウ科】 【シュロソウ科】 【ツツジ科】 【ナデシコ科】 【ハナシノブ科】 【ハマウツボ科】 【バラ科】 【フウロソウ科】 【マメ科】 【ユキノシタ科】 【ユリ科】 【ラン科】 【リンドウ科】 (ここの並びは、あいうえお順)

以下の並びは、APGVに準拠。 探したい花の名前がわかっている場合は、トップページの【花の検索】から探すと全ての山のページが対象になります。
【シュロソウ科】
リシリソウ (シュロソウ科 リシリソウ属)
Anticlea sibirica  (利尻草)
 
国内では礼文島と利尻山の高山帯のみに分布します。海外では朝鮮半島北部、中国北部、シベリアに分布します。リシリソウ属の植物は世界では11種が分布しますが、日本では本種のみが分布します。 利尻山で発見されたのでこの名前がありますが、利尻山ではまず見かけないようです。
礼文島でも個体数は少なく、2日間歩き廻ってたった1株見かけただけです。 地味な花ですが、非常に珍しいのです。 なお、従来はユリ科でしたが、APG分類ではシュロソウ科に変わりました。

【ユリ科】
ツバメオモト (ユリ科 ツバメオモト属)
Clintonia udensis  (燕万年青)
 
北海道と本州(奈良以北)の山地帯から亜高山帯の樹林の陰になるような場所ならば、どこの山にも生えています。海外ではサハリン、朝鮮半島、中国、シベリア東部、ヒマラヤ東部に分布します。 中部山岳ですと、この花が咲いている付近は長い樹林帯の最中で、先を急ぐあまりにカメラを向ける余裕もなかったようです。
礼文島を縦断する8時間コースでは、そんなに急ぐ必要もありませんから、ゆっくりと花を見ることが出来ます。特に私が歩いた6月初めは西上泊から笹泊川上部の沢までの間は笹藪だけの状態ですので、樹林帯の下でひっそりと咲いている花にも目が届くようで、久しぶりにツバメオモトを撮影しました。
葉が万年青に似ていること、濃藍色に熟した実が燕の頭を連想することからこの名前があります。

クロユリ (ユリ科 バイモ属)
Fritillaria camtschatcensis var. camschatcensis  (黒百合)
 
本州の中部山岳以北と北海道の亜高山帯から高山帯の草地に分布します。北海道では低地にも分布します。海外ではサハリン、ウスリー、カムチャッカ半島、北米などに分布します。 クロユリの分類については、北海道、サハリン、北米などに分布するものをクロユリ、本州の高山などに分布するものを変種のミヤマクロユリ(var. keisukei)とする考え方があります。 一方、クロユリとミヤマクロユリを区別しないという考え方もあります。 クロユリは全体に大柄で花数が多いのに対して、ミヤマクロユリは小柄で1茎に1〜2個の花をつけますので、外観を比較しただけでは別種のように思えます。 また、染色体数もクロユリは3倍体なので種子ではなく鱗茎で増えますが、ミヤマクロユリは2倍体なので種子で増えるといった違いもあります。 何れにしても写真の株は、礼文島で撮影したのでクロユリに間違いはありません。
クロユリとは名ばかりで、一般的な花色は暗褐色で黄色の細かい斑点が入ります。しかもユリの名はあっても、ユリ属ではなくバイモ属の為、本によっては胡散臭い花のように書かれることもあります。 また、クロユリはアイヌ伝説に基づき恋の花と言われたり、戦国武将の伝説から呪いの花と言われたりするのも他の花では見られない不思議な色合いからかもしれません。
私が礼文島の久種湖畔で見かけたものは漆黒とはいかないまでも、かなり黒に近い色でした。これならば、クロユリの名に恥じない色です。雨に濡れて佇む姿には、神秘的なものがありました。 実際の感じはもう少し褐色がかかっていたのですが、写真にしたら黒が強調されたように思います。

【ラン科】
レブンアツモリソウ (ラン科 アツモリソウ属)
Cypripedium macranthos var. rebunense  (礼文敦盛草)
 
礼文島に特産する固有種のアツモリソウです。美しい花で、この花を見たくて花期に礼文島を訪れました。
民宿のおばちゃんの話だと、昔は島のあちこちに咲いていたらしいのですが、美しいが故に盗掘され、今では絶滅が心配されています。
島の北部の自生地で、厳重な柵に守られて咲いている姿には、何か悲しいものがあります。
近縁のアツモリソウ(ver. macranthos)やホテイアツモリソウが淡紅色や紅色の花なのに対して、本種はご覧のように淡いクリーム色の花をつけます。花が終わりに近づくと純白になります。
アツモリソウの名の由来は、近縁種のクマガイソウと同様、平家物語の平敦盛と熊谷直実のお話に因んでいます。 源平の合戦の頃の武者は、敵の矢を防ぐ為に、母衣という袋を鎧の後に背負っていました。この母衣が風に膨らんだ様子を源平の武者にたとえています。近縁種にはキバナノアツモリソウもあります。

ハクサンチドリ (ラン科 ハクサンチドリ属)
Dactylorhiza aristata  (白山千鳥)
 
本州中部以北と北海道の亜高山帯から冷温帯の草地に分布します。海外ではサハリン、朝鮮半島、中国東部、カムチャッカ半島、アリューシャン列島、アラスカに分布します。 日本の野生ランには千鳥の名前が多いです。 花穂に多数の花をつけて、文字通り小鳥が群れているようです。 この花は北方に行くほど花穂の花数が増えるようです。写真の株は礼文島で撮影したものです。円内は南アルプス北岳で撮影したものですが、花数が寂しいです。 北方の株の方が、花数が増える傾向は、テガタチドリでも見られます。
右は大雪山で撮影した葉に斑紋のあるウズラバハクサンチドリ(f. punctata)です。花が貧相で申しわけありません。このほかにも白花のシロバナハクサンチドリ(f. albiflora)といった品種があります。

エゾチドリ (ラン科 ツレサギソウ属)
Platanthera metabifolia  (蝦夷千鳥)
 
北海道の寒冷地の海岸付近の草原に分布します。海外ではサハリン、シベリアに分布します。
根元に2枚の大きな葉があることから別名をフタバツレサギ(双葉連鷺)と言います。この葉は、花が咲く頃には枯れるか傷みがひどくなると言われていますが、私が見かけたものはまだしっかりしていました。 最初に遠くから見かけた時には、シロバナハクサンチドリかと思ったのですが、葉の形が違っていました。 今回礼文島は2日間歩き廻ったのですが、たった1株見かけただけで個体数は少ないようです。

【クサスギカズラ科】
ヒメイズイ (クサスギカズラ科 アマドコロ属)
Polygonatum humile  (姫萎蕤)
 
九州・本州中部以北・北海道の草原や海岸に分布します。海外ではサハリン、シベリア、朝鮮半島、中国棟北部、モンゴルに分布します。どこの山にでも生えているアマドコロ(P. odoratum var. pluriflorum)の近縁種です。 花としてはありふれており、本州などでは草丈は20〜50cm位になるのですが、礼文島では環境が厳しいのか矮性化しています。 写真のものもそうですが、礼文島では草丈僅か5cm程度で花をつけます。この小さな体に花のサイズだけは一人前のものを咲かせています。この姿が大変ユーモラスなので載せることにしました。
萎蕤(イズイ)とは、アマドコロや類縁種の根茎の漢方名です。 従来はユリ科でしたが、APG分類ではクサスギカズラ科に変わりました。 クサスギカズラ科の名前の由来はコバギボウシをご覧下さい。

【ケシ科】
リシリヒナゲシ (ケシ科 ケシ属)
Papaver fauriei  (利尻雛罌粟)
 
利尻山の山頂付近に特産する固有種の花で、日本に自生する唯一のケシ科ケシ属の花です。
利尻島に行くと宿の花壇など至る所にリシリヒナゲシという花が咲いていますが、あれは偽物(外来種のチシマヒナゲシやその雑種)です。本物は利尻山の山頂付近にしか咲いていません。 それどころか、この偽物を利尻山の山頂付近に植えた者がいたのです。 このことは私が利尻山に登った2001年頃から顕在化し、その後DNA検査まで行うという大変な労力を掛けて偽物を駆除しているという報道がありました。 前回撮った写真は偽物かもしれないという疑惑はその頃からありました。その後随分経ったので偽物駆除も済んだ頃と思い今年(2016年)登って来ました。
この写真は山頂付近で見掛けた本物と思われる株です。悲しいことに利尻山で見掛けたのは僅か3株だけで、平地の偽物よりも小さな花をつけていました。以前私が撮影した株は偽物だったようです。 15年間も偽物を掲載していて申し訳ありませんでした。この写真はだぶん本物のリシリヒナゲシです。
観光目的の為でしょうが、高山植物展示園のような公的な場所にもリシリヒナゲシとして堂々と偽物が植えられているのは問題ではないのでしょうか。

【キンポウゲ科】
ボタンキンバイ (キンポウゲ科 キンバイソウ属)
Trollius altaicus subsp. pulcher  (牡丹金梅)
 
利尻山の高山帯の草地に特産します。チシマノキンバイソウの変種として扱われたこともありましたが、APGV分類では中央アジアなどに分布する近縁種(subsp. altaicus)の亜種として分類されています。
他のキンバイソウと違って雌蕊の先が赤いのが特徴です。又、花弁のように見える萼片が9〜16枚と多く、重なり合っているので半球状の八重咲きになります。 リシリヒナゲシと並んで利尻山を象徴する花ですが、登山道沿いではたった1株が咲いているだけでした。
右の写真は9合目付近の斜面に広がる群落です。ここの群落は有名で色々な写真を見かけます。プロのカメラマンは許可を得て、この群落に近付いて撮影しているのでしょうが、登山道からの撮影では距離があり過ぎました。

レブンキンバイソウ (キンポウゲ科 キンバイソウ属)
Trollius rebunensis  (礼文金梅草)
 
別名をオクキンバイソウと言います。礼文島の中性草原に特産する固有種です。花弁状の萼片が多いので二重に重なります。雄蘂の束から飛び出ているのが花弁です。
元地灯台から桃岩にかけてのコースで見られますが、年によって開花状態に差があるようで、なかなか良い状態のものには出会えていません。また、他の植物と混生しているので、写真を撮るとなると他の植物が邪魔になったりして撮影に苦労します。近縁種と比べて葉に更に細かく裂けるので葉まで写し込みたかったのですが、思うようには撮れませんでした。
以前はシベリアから東アジアにかけて分布する(T. ledebourii)又はその変種(var. polysepalus)とされていましたが、現在は独立種とされています。

【ユキノシタ科】
チシマイワブキ (ユキノシタ科 チシマイワブキ属)
Micranthes nelsoniana var. reniformis  (千島岩蕗)
 
利尻山、大雪山、千島のみに分布します。湿った岩場を好み、海外ではサハリンに分布します。
前回(2001年)登った時は偶然見掛けた1株だけしか気付きませんでした。今回(2016年)は山頂付近の登山道から離れた岩壁には結構咲いていましたが、登山道脇ではあまり見られませんでした。地味な花ですが、結構珍品です。
なお、チシマイワブキは従来ユキノシタ属チシマイワブキ節でしたが、APG分類ではチシマイワブキ属として独立しました。

【マメ科】
カラフトゲンゲ (マメ科 イワオウギ属)
Hedysarum hedysaroides  (樺太紫雲英)
 
この花が分布するのは礼文島以外では大雪山や芦別岳などに限られています。海外ではユーラシア大陸に分布します。大雪山で見る為には高山帯まで登らねばなりませんが、礼文島では海岸近くの草原で見られます。 もっと注目されても良いのですが、なんせ礼文島ではレブンソウが有名なのでマイナー扱いです。この花をレブンソウだと勘違いして撮影している観光客をよく見かけます。 イワオウギ属の特徴として花を下向きにつけるので、上向きに咲かせるレブンソウとは容易に区別が出来ます。
レブンソウと比べると花期は短く一度に咲きます。
豆果に毛が無いものをカラフトゲンゲ、毛があるのをチシマゲンゲ(f. neglectum)と区別します。礼文のものは殆どがチマゲンゲと言われていますが、実を確認した訳でもありませんのでカラフトゲンゲと紹介いたします。

レブンソウ (マメ科 オヤマノエンドウ属)
Oxytropis megalantha  (礼文草)
 
この花も礼文島に特産する固有種です。 中部山岳で見られるオヤマノエンドウの近縁種で、礼文島ではこんな花まで海岸の近くで見ることが出来ます。 まとまって咲いている場所もあるらしいのですが、散策コース沿いではなかなか見ることが出来ません。 花の盛りは6月中旬頃のようですが、花期は結構長くて6月初旬から8月上旬でもまだ咲いていました。蕾と実が同時に咲いているのを見かけたこともあります。
本来は花数がもう少し多くて花がボール状になるのですが、残念ながらまだこの程度の写真しか撮れていません。この花が咲く頃には、前項で紹介したカラフトゲンゲ以外にもクサフジ(Vicia cracca)やツルフジバカマ(Vicia amoena)といった似たような花が咲き競いますが、オヤマノエンドウ属のレブンソウは花を上向きにつけることと全体に毛が多いことが特徴です。(写真右下を参照)

【バラ科】
ハマナス (バラ科 バラ属)
Rosa rugosa  (浜梨)
 
こんな花を『高山植物写真館』に登場させたら叱られそうです。 北海道〜本州(日本海側は島根県、太平洋側は茨城県以北)の海岸砂地に広く分布します。海外は東北アジアの温帯から亜寒帯まで広く分布します。
ご存じの通り、夏の北海道の海岸では一般的に見られる灌木です。 しかし、環境の厳しい礼文島西海岸に生えるハマナスは矮小化し、地面にへばり付くように枝を這わせ、高山植物のような雰囲気があります。
同じ礼文島でも香深などの島の東部では当然のように大きくなり、同じ植物とは思われないほどです。 7月の礼文島8時間コースを歩くと、エゾウスユキソウに混じって砂地にへばり付くように咲いているこの花を無視する訳にはいきません。

ナガボノシロワレモコウ (バラ科 ワレモコウ属)
Sanguisorba tenuifolia ver. tenuifolia f. alba  (長穂の白吾木香)
 
礼文島の花というわけでもなく、北海道や本州中部以北の亜高山帯の湿地や草原に分布します。海外では東北アジアに広く分布します。
真夏の澄海岬はこの花が咲き乱れていました。ワレモコウは、小さな花が密生した穂状花序をつけますが、個々の小さな花から突き出ているのは雄蕊で花弁はなく4枚の萼片です。 この花序は先の方から咲いてゆきます。このような咲き方を有限花序といいます。

【フウロソウ科】
チシマフウロ (フウロソウ科 フウロソウ属)
Geranium erianthum  (千島風露)
 
東北地方北部と北海道の亜高山帯〜高山帯の草原に分布します。海外ではサハリン、ロシア沿海地域からアラスカ、アメリカ北部にかけて広く分布します。 大雪山に分布する別品種のトカチフウロと比べて花色が濃いのですが、礼文島のものは花色が濃い上に花数も多いので大変見事です。
7月の礼文島8時間コースでは、この花とレブンシオガマエゾカワラナデシコハマナスエゾイブキトラノオ、ツルフジバカマ(Vicia amoena)が目立ちます。

【アブラナ科】
エゾイヌナズナ (アブラナ科 イヌナズナ属)
Draba borealis  (蝦夷犬薺)
 
別名シロイヌナズナとも言います。北海道と本州(下北半島)の海岸や山地帯〜亜高山の岩場や砂礫地に分布します。海外ではサハリン、ロシア沿海地方、アラスカに分布します。 レブンアツモリソウを見ようと6月初めに礼文島を訪れた時は、島の北部はこの花が盛りでした。生命力が強いのか、草地は勿論のこと、海岸線付近の岩場にまで大きな株が進出していました。

【ナデシコ科】
エゾカワラナデシコ (ナデシコ科 ナデシコ属)
Dianthus superbus var. superbus  (蝦夷河原撫子)
 
野山に咲く秋の七草のナデシコは正しくはカワラナデシコ(ver. longicalycinus)と言います。何種類かの変種がありますが、基準変種がこのエゾカワラナデシコです。 本州中部以北と北海道の海岸草原に分布します。海外ではユーラシア大陸に広く分布します。
この写真ではわかり難いのですが、苞が2対あって下部1対が大きく、先が尾状に伸びるのが特徴です。 礼文島のものは他の地域のものに比べて花数が多い上に花色も濃く大株になるようです。丘陵地帯は勿論のこと海岸端でも咲いています。 この写真を以前は誤ってタカネナデシコと紹介していましたが、今回詳細に写真を見たところ苞の形状から誤りに気づきました。

【ハナシノブ科】
レブンハナシノブ (ハナシノブ科 ハナシノブ属)
Polemonium caeruleum subsp. laxiflorum ver. laxiflorum f. insulare  (礼文花忍)
 
北海道に分布するカラフトハナシノブ(Polemonium caeruleum subsp. laxiflorum ver. laxiflorum)の別品種で礼文島のみに分布します。カラフトハナシノブに比べて花が密生するので美しいです。中部山岳に分布するミヤマハナシノブも近縁ですが、ミヤマハナシノブに比べると、本種の花は小型です。
長い茎の先に花をつけ、礼文島の強風に揺れ動くので、ストロボに頼った撮影をしました。バックが暗くなってしまったので、Photoshop®で修正しました。

【サクラソウ科】
サクラソウモドキ (サクラソウ科 サクラソウモドキ属)
Cortusa matthioli subsp. pekinensis var. sachalinensis  (桜草擬)
 
まるで、偽物のような名前で可哀想です。
北海道に分布するとされますが、利尻・礼文以外では崕山や手稲山など限られた場所でしか見られません。海外ではサハリンに分布します。樹林帯の沢筋などの薄暗い湿った場所を好むようです。掌状の葉と茎には毛が疎らに生えています。サクラソウ属と違って花冠は5深裂しますが平開せずに下向きに咲かせます。まるで偽物扱いされた名前を恥じているかのように樹林の下で、うつむきかげんに花をつけていました。
偽物のような属名ですが、サクラソウモドキ属はユーロッパから東アジアにかけて8種が分布するだけで、日本には本種のみが分布する珍しい花なのです。

レブンコザクラ (サクラソウ科 サクラソウ属)
Primula modesta var. matsumurae  (礼文小桜)
 
ユキワリソウの変種で礼文島以外では、夕張山地、北見山地、知床半島、択捉島に分布します。海外には分布しません。
礼文島の草原には沢山自生しているのですが、花期が早く6月初旬にレブンアツモリソウを見に行った時には、もう花期も終わりに近く、殆どの花がどこかしら傷んでいました。 その中で、ようやく見つけた咲き始めの株です。
レブンコザクラはユキワリソウに比べて全体的に大柄で、葉が大きく縁に波状の歯牙があります。また花数も多くて花全体がボール状になるのですが、写真のものは花数が少ない方です。刮ハは長さ約11mmで萼の1.5〜2倍位になります。 本種はユキワリソウと同様、サクラソウ属の中でもユキワリソウ亜属に分類されるサクラソウで、根生葉が外側にカールする特徴を持っています。

【ツツジ科】
エゾツツジ (ツツジ科 エゾツツジ属)
Therorhodion camtschaticum  (蝦夷躑躅)
 
草のように見えますがれっきとした落葉性の低木です。北海道と本州(秋田駒ヶ岳と早池峰山)の高山帯の岩礫地に分布します。海外ではカムチャッカ半島、シベリア、アラスカに分布します。
風衝岩礫地などに大きな株を作り、花を沢山つけますので、花期には目立ちます。花は公園などで見かけるツツジよりも小さめで、花冠の直径は3cm位です。私の写真では判り難いのですが、花冠は均等に5裂するのではなく、上の3弁は中裂、下の2弁は深裂します。
この花の撮影をした時は花期も終わり頃で、花が落ちていたり傷んでいたりするものが多く、写真になるような株を探すのに苦労をしました。
ツツジに似ていますが、大きな苞が果期まで残り、大きな萼片があるなどツツジ属とは異なる特徴があることから、エゾツツジ属として分類されています。 エゾツツジ属は東アジアからアラスカの亜寒帯から寒帯に3種分布しますが、日本には本種のみが分布します。

【リンドウ科】
リシリリンドウ (リンドウ科 リンドウ属)
Gentiana jamesii  (利尻竜胆)
 
クモマリンドウとも言います。見られる山は限られ北海道の利尻山、大雪山系、夕張岳、千島の高山帯のやや湿った草地に分布します。海外では朝鮮半島北部、中国東北部、カムチャッカ半島、シベリアに分布します。
5裂する花冠の間の副片が開花時には内向して花筒を塞ぐといった独特の花形ですので、一般のリンドウとはちょっと違った印象を受けます。 こんな形だと昆虫による受粉を受け難いような気がするのですが、どんな工夫をしているのでしょうか。
この写真は大雪山で撮影したものです。歩いたルートにもよるのでしょうが大雪山でも1回見掛けただけで、名前の由来となった利尻山では見たことがありません。名前にこだわってこちらのページに掲載しました。

【オオバコ科】
シラゲキクバクワガタ (オオバコ科 クワガタソウ属)
Veronica schmidtiana subsp. schmidtiana f. candida  (白毛菊葉鍬形)
 
キクバクワガタ(subsp. schmidtiana)は、北海道、サハリン、カムチャッカ半島、アリューシャン列島、アラスカにかけて分布ます。 葉の切れ込みが深く、キクの葉に似ていることから、この名前があります。 このうち、全体に白い毛が特に多いものがシラゲキクバクワガタという別品種で、礼文島と厚岸に分布します。礼文島で見られるものは、殆どがシラゲキクバクワガタです。
生命力が強いのか、林道工事で山肌が削られて露わになって他の植物が生育出来ないような荒れ地に帰化植物のセイヨウタンポポと一緒に咲いていました。 クワガタソウ属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではオオバコ科に含められました。

【ハマウツボ科】
レブンシオガマ (ハマウツボ科 シオガマギク属)
Pedicularis chamissonis var. rebunensis  (礼文塩竈)
 
ヨツバシオガマよりも大柄なシオガマで、東北や北海道に生えるものはエゾヨツバシオガマ([キタヨツバシオガマ] Pedicularis chamissonis)といいます。礼文島のものは特に大柄で、草丈も70〜80cm位の大きな株となります。中には花穂が分岐していたり、名前の由来となった輪生する葉を5〜7枚つけていたりするものまであり、レブンシオガマとして区別されます。但し、別品種とする見解や両者を全く区別しないという見解もあります。 島のあちこちで帰化植物と競うように逞しく生育しています。 シオガマギク属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。

ネムロシオガマ (ハマウツボ科 シオガマギク属)
Pedicularis schistostegia  (根室塩竈)
 
北海道東部と礼文島の海岸近くの草地に分布します。海外ではサハリンに分布します。 他のシオガマと比べても、茎が太いのと白い花が特徴です。 但し、花色は純白ではなく、上唇は淡い黄色で下唇は白色です。
シオガマギク属の仲間の葉は羽状に裂けて美しいのですが、本種もミヤマシオガマに負けないほど羽状に美しく裂けます。
本種以外にも礼文島と北海道東部に隔離分布する花は、エゾウスユキソウやレブンコザクラなど幾つかあります。 シオガマギク属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではハマウツボ科に移りました。

【キク科】
シュムシュノコギリソウ (キク科 ノコギリソウ属)
Achillea alpina subsp. camtschatica  (占守鋸草)
 
千島列島最北端の占守(シュムシュ)島で発見されたので、この名前があります。利尻山と千島に分布します。海外ではサハリン、カムチャッカ半島に分布します。
今までシュムシュノコギリソウとして右側の写真を掲載していました。 しかし、シュムシュノコギリソウには、『総苞に長毛があり、総苞片は広く褐色膜質縁で葉の裂片は斜上する』、以外にも『花茎はふつう分枝しない』といった特徴があります。 右の写真には、頭花付近で分岐がみられます。分岐状態は、『ふつう』がどの程度なのか判りませんが、その他にも頭花の数が図鑑などに掲載された写真よりは多い感じがします。
そこで、左側に図鑑などに載っているシュムシュノコギリソウに近い写真も付け加えました。 どちらの写真も利尻山の中腹付近の同じ場所で同じ日に撮った写真ですから、シュムシュノコギリソウで間違いはないだろうとは思っています。 通常は白花ですが、右側の写真のようにピンク色を帯びる花もあります。

アサギリソウ (キク科 ヨモギ属)
Artemisia schmidtiana  (朝霧草)
 
北海道や本州(北陸・東北)の高山帯や亜高山帯の岩礫地に分布します。礼文島では海岸付近の岩場でも見られます。海外ではサハリンに分布します。 近縁種のキタダケヨモギもそうですが、茎葉は2回羽状に深裂し、裂片は細くて銀色の細かい毛で覆われるので光が当たると大変きれいです。 ヨモギの仲間ですから花はたいしたことはありませんし、花が咲く頃には花茎が伸びて間延びしてしまうので、この写真のように花が咲く前の方が見映えがします。

エゾウスユキソウ (キク科 ウスユキソウ属)
Leontopodium discolor  (蝦夷薄雪草)
 
エーデルワイスの仲間で、別名をレブンウスユキソウとも言います。礼文町のシンボル的な花で、町の花にもなっています。 しかし、礼文島の固有種ではなく、ニペソツ山、藻琴山、釧路昆布森に分布し、乾いた草地や岩礫帯に生育します。海外ではサハリン、ウスリーに分布します。
私自身は、ハヤチネウスユキソウオオヒラウスユキソウミヤマウスユキソウホソバヒナウスユキソウヒメウスユキソウ及びミネウスユキソウといった近縁種でお馴染みの花なので、リシリヒナゲシやレブンアツモリソウを見に行ったついでに撮っていましたが、良い写真は撮れませんでした。おかげで4回も礼文島を訪れることになりました。
礼文島の民宿などの花壇に植えてあるのを見かけることもあります。 礼文林道沿いにロープで囲まれた自生地が2箇所ありますが、車で簡単に行けるせいか荒れていました。一般観光客が行かないような場所でないと良い株は見られないようです。尤もそんな場所ではプロの盗掘者に狙われるなど、この花も安心して咲いていられる場所は少ないようです。

尚、当ページに掲載した写真の著作権は中村和人にあります。 無断転載しないで下さい。
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