高山植物を固有種や希産種を中心に山域別に紹介していると、どうしても偏りが出てしまいます。南アルプスは北岳を中心に確かに固有種が多いのですが、最初にここから撮影を始めた関係で、どこの高山にも咲いている花まで紹介して大所帯になってしまいました。一方、中央アルプスのように僅か4種でページを作ったこともありますが、これ以上山域を分けるのも意味がありません。そこで今回から新たな山域を追加することは止めて、今までのページに含まれない花を「その他の山」のページとして紹介することにしました。
作品の追加、変更は随時行う予定ですので、ご了解下さい。
どこの山かな?
最終更新日;2025年4月24日
【イネ科】
【キク科】
【キンポウゲ科】
【サクラソウ科】
【シュロソウ科】
【タヌキモ科】
【ツツジ科】
【ナデシコ科】
【ラン科】
【リンドウ科】
(ここの並びは、あいうえお順)
以下の並びは、APGVに準拠。 探したい花の名前がわかっている場合は、トップページの【花の検索】から探すと全ての山のページが対象になります。
【シュロソウ科】
キヌガサソウ (シュロソウ科 キヌガサソウ属)
Kinugasa japonica (衣笠草)
火打山で撮影したキヌガサソウです。
中部以北の日本海側の山地帯から亜高山帯の湿った樹林や林縁などに分布します。本州のみに分布します。
キヌガサソウ属は日本特産の本種1種のみからなる1属1種の植物で近縁種はありませんが、ツクバネソウ属に含まれるという見解もあります。
林縁などに大群落を作ることもあります。
白い外花被片(萼)は花弁状で7〜10枚、内花被片(花弁)は外花被片と同数の線状で目立ちません。
右下円内の実の写真は立山で撮影したものです。秋になると外花被片が淡緑色に変わって残ったまま結実するので、緑の花のように見えるのもこの花の特徴です。
衣笠(絹笠)とは、昔の貴人が外出の際に従者が背後から差し掛けた絹で張った長い柄の傘のことで、傘状に広がる葉を衣笠にたとえています。
なお、従来はユリ科でしたが、APG分類ではシュロソウ科に変わりました。
【ラン科】
キバナノアツモリソウ (ラン科 アツモリソウ属)
Cypripedium yatabeanum (黄花の敦盛草)
高妻山で撮影したキバナノアツモリソウです。
北海道と本州の男鹿半島と中部山岳の山地や亜高山帯の草地などに生えるランです。海外では、カムチャッカ半島、アリューシャン列島、アラスカに分布します。
南アルプス前衛の櫛形山は、この花で有名だったのですが、山草家達に盗掘されて絶滅してしまいました。
仙丈岳や雨飾山で探しても見つからず、南アルプス北部の入笠山で撮影したものは、周囲の環境を考慮すると保護の為に人手が加えられたようでした。ようやく高妻山で野生状態のものを見掛けました。入笠山で見かけたものは株が大きくて花も大柄でしたが、高妻山のものは小さい花でした。
袋状の唇弁の模様は固体毎に違っています。また、左上の円内に正面方向からの写真を載せました。背萼片と呼ばれる蓋状の萼の外側は地味ですが内側には見事な模様があります。
アツモリソウの仲間には、淡いクリーム色のレブンアツモリソウや紅色のホテイアツモリソウ等があります。
名前の由来はレブンアツモリソウのページをご覧下さい。
【イネ科】
コメススキ (イネ科 コメススキ属)
Avenella flexuosa (米薄)
イネ科は、米、麦、トウモロコシなど多くの食料になる植物が属する重要な科ですが、花となるとカヤツリグザ科と並んで地味なものばかりです。
そんなイネ科にも高山性の植物は多数あります。その中でもコメススキは高山帯に群生し、赤茶色の長い茎の先が細かく枝分かれし、その先に小さな穂をつけて風に揺れている姿は、秋の高山では目立ちます。写真の株は立山で撮影したものです。
コメススキは、北海道と本州中部以北、大峰山、大山、四国(一部)、九州(一部)の亜高山帯や高山帯の陽当たりの良い砂礫地に分布します。
海外では両半球の高山に分布します。分布範囲が非常に広い植物ですが、コメススキは1属1種の植物です。
なお、ススキの名前がありますが、平地の植物で月見の時に飾るススキ(Miscanthus sinensis)はススキ属の植物で属が違います。
【キンポウゲ科】
コミヤマハンショウヅル (キンポウゲ科 センニンソウ属)
Clematis ochotensis var. japonica f. fauriei (小深山半鐘蔓)
八幡平で撮影したコミヤマハンショウヅルです。
東北地方の八甲田山、八幡平、岩手山、早池峰山などに分布し、海外には分布しません。ミヤマハンショウヅル(var. japonica)やエゾミヤマハンショウヅル(var. ochotensis)の葉は2回3出の複葉ですが、コミヤマハンショウヅルは1回3出の複葉というのが最大の特徴です。これだけ違うと変種扱いではと思うのですが、ミヤマハンショウヅルの別品種扱いです。1回3出の複葉と花のツーショットです。
学名を見れば判るように園芸植物のクレマチスの仲間です。
【ナデシコ科】
チョウカイフスマ (ナデシコ科 ノミノツヅリ属)
Arenaria merckioides var. chokaiensis (鳥海衾)
鳥海山で撮影したチョウカイフスマです。雌阿寒岳などに生育するメアカンフスマ(ver. merckioides)の変種で、基準変種よりも葉や花が全体的に大きいといった違いがあります。
鳥海山と月山の砂礫地や岩隙などに特産します。但し、月山に生育するものは、鳥海山から移植されたものであるという記載がウィキペディアには載っています。
鳥海山でも山頂付近まで登らないと見られませんが、山頂付近では結構沢山見掛けます。山頂にある鳥海山大物忌神社山頂本殿の鳥居の脇にある大きな石にも、この花の大株が着生していました。山頂の御室小屋の裏手にも大株が幾つもあり、写真の株はそのうちの一つです。
【サクラソウ科】
ハクサンコザクラ (サクラソウ科 サクラソウ属)
Primula cuneifolia var. hakusanensis (白山小桜)
火打山で撮影したハクサンコザクラです。エゾコザクラ(ver. cuneifolia)の変種で、基準変種より全体にやや大きいといった特徴があります。です。名前の由来となった加賀の白山から東北の飯豊山までの日本海側の亜高山帯から高山帯の雪田周辺といった湿った場所に生育します。
ハクサンコザクラは海外には分布しませんが、基準変種のエゾコザクラは北太平洋地域など海外にも広く分布します。
サクラソウの仲間には本種のように根生葉が内側に巻くもの(ハクサンコザクラ亜属)とユキワリソウのように根生葉が外に巻くもの(ユキワリソウ亜属)があり、重要な見分けるポイントとなっています。ハクサンコザクラ亜属のサクラソウには、エゾコザクラやヒナザクラがあります。
火打山をバックに天狗ノ庭の湿原一面に咲き誇るハクサンコザクラの大群落のポスターを見て、2007年に火打山に行きました。天狗ノ庭は、周囲の木道以外は立入が禁止されており、木道の脇に咲いていた花を撮影しました。ポスターの写真は画角などから推定すると湿原の中から撮影されたようです。宿泊した小屋の人に聞いたら、もう何年も前の古い写真を観光ポスターでは使い回ししているとのことでした。
【ツツジ科】
ウラジロヨウラク (ツツジ科 ツツジ属)
Rhododendron multiflorum var. multiflorum (裏白瓔珞)
雨飾山で撮影したウラジロヨウラクです。
北海道南部、本州中部以北の山地帯から亜高山帯の林縁や湿地に生える落葉低木です。海外には分布しません。
瓔珞とは仏像などの装身具のひとつで、瓔には珠のような石、珞には「纏う」という意味があり、宝石などが編み込まれた首飾りや胸飾りです。
確かに紅紫色の釣鐘状の小さな花冠が連なって咲いている様子は宝石などが編み込まれた首飾りのようです。
裏面が粉白を帯びるのと瓔珞を想起させる花が和名の由来です。
かつては、ヨウラクツツジ属として独立していたのですが、APG分類ではツツジ属に含まれました。
ヨウラクツツジ属以外にもイソツツジ属やハコネコメツツジ属もAPG分類ではツツジ属に含まれるようになった為、ツツジ属は大所帯になりました。
【リンドウ科】
オヤマリンドウ (リンドウ科 リンドウ属)
Gentiana makinoi (御山竜胆)
那須の茶臼岳で撮影したオヤマリンドウです。
本州(朝日・飯豊〜氷ノ山)、四国(石鎚山)の亜高山や高山帯の草地に分布し、海外には分布しません。別名はキヤマリンドウです。
花は茎の先端だけにつきます。葉の葉脈は3脈(稀に5脈)ですが、中央の脈以外は殆ど目立ちません。この写真も左の上から3枚目の葉を良く見ると端の方にうっすらとした葉脈が見えます。撮影当日の天気が曇りがちだったので花は閉じていますが、晴れていても花冠はあまり開きません。
牧野日本植物図鑑には、『和名ハ御山龍膽ノ意ナリ、此名ハきやまりんだうト共ニ花戸ノ稱ニテきやまハ加賀白山ノ半腹樹木叢生ノ處ニ生ズルニ由ルト伝フ。』という記載があり、オヤマリンドウのオヤマとは加賀の白山のことだそうです。
なお、種小名のmakinoiは牧野富太郎への献名です。
【タヌキモ科】
ムシトリスミレ (タヌキモ科 ムシトリスミレ属)
Pinguicula macroceras (虫取菫)
八幡平で撮影したムシトリスミレです。
北海道、本州(近畿以北)、四国(立石山)の亜高山帯〜高山帯の湿り気のある崖や湿原に分布します。海外では北太平洋全域に分布します。
スミレの名前がありますがスミレ科の植物ではありません。
タヌキモ科の食虫植物です。
花の形や色はスミレに良く似ていますが、葉は食虫植物そのものです。
葉は根生し、縁は全縁で内側に捲れあがり、表面に密生した腺毛から消化粘液を分泌して昆虫を捕らえます。
葉の内側の黒いカスは、そうした昆虫のなれの果てです。
【キク科】
チョウカイアザミ (キク科 アザミ属)
Cirsium chokaiense (鳥海薊)
鳥海山の固有種のチョウカイアザミです。日当たりの良い高山帯の草地に生育します。鉾立口から登ると御浜小屋から山頂にかけて、かなりの数の固体が見られます。高山植物はどちらかと言えば可憐な花が多いのですが、大型のアザミで羽状に大きく裂けた葉の先は鋭く尖り、茎や葉には沢山の棘があります。大きな花を下向きに咲かせます。固有種なのですが、あまり美しくないせいなのか、この花をカメラに納める登山者は少ないです。鳥海湖(鳥ノ海)を背景に撮影しました。右は蕾の写真です。蕾の時の方が、まだ可愛らしさがありますが、葉先は既に鋭く尖り棘も生えています。
カンチコウゾリナ (キク科 コウゾリナ属)
Picris hieracioides subsp. kamtschatica (寒地髪剃菜)
立山で撮影したカンチコウゾリナです。
北海道や本州中部以北の高山帯の草地に生えます。海外では千島、サハリン、カムチャッカ、シベリアなどにも分布します。南アルプスや八ヶ岳にも分布しているはずですが、私は見掛けたことがありません。
茎や葉全体に黒い剛毛が多く生えています。花は散房状の花序で約3cmの頭花をつけます。また、総苞が黒緑色といった特徴があります。
葉がカミソリのような形をしているので、コウゾリナ(髪剃菜)という名前がつく植物には、カンチコウゾリナの他にヤナギタンポポ属にミヤマコウゾリナ(Hieracium japonicum)、ブタナ属にエゾコウゾリナ(Hypochaeris crepidioides)がありますが、全て所属する属が異なっています。
トウゲブキ (キク科 メタカラコウ属)
Ligularia hodgsonii var. hodgsonii (峠蕗)
鳥海山で撮影したトウゲブキです。
月山以北の東北地方と北海道の山岳帯や亜高山帯の草地に分布し、海外には分布しません。
植物図鑑などには『茎の高さは30〜80cmで、根出葉は長さ30cmになる長い葉柄があり、葉身は腎形で長さ4.5〜13cm、幅は7.5〜27cmになり、先端は丸く基部は心形で、縁には不ぞろいの鈍い鋸歯がある。』などとこの花の特徴が書いてあります。
総苞に暗褐色の毛があるものは変種のカラフトトウゲブキ(ver. sachalinensis)で、国内では利尻島、礼文島、北海道、千島に、海外ではサハリンなどに分布します。
この花と良く似たマルバダケブキと見分ける最大のポイントは、左下の円内の拡大写真のように総苞や頭花柄の基部に包葉があることで、マルバダケブキにはありません。
撮影した当日はカンカン照りの一日で、非常にコントラストの強い写真となりました。昔の銀塩フィルムだったら失敗写真になるところでしたが、デジカメのRAW画像からデジタル処理でなんとか見られるレベルまで補正が出来ました。
尚、当ページに掲載した写真の著作権は中村和人にあります。
無断転載しないで下さい。
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