大平山(おびらやま)は、道南の島牧郡島牧村にあります。標高は1191mと高くはありませんが、冬には日本海からの強い季節風を受けて降雪量が多く、石灰岩からなる塩基性の土壌の影響で通常の植物が生育し難い環境となっています。
この為、高山に近い環境となっており、オオヒラウスユキソウやオオヒラタンポポなどの貴重な固有種が分布する山です。
また、植物以外にもカドバリヒメマイマイというここにしか生息しない珍しい形の殻を背負ったカタツムリもいます。
大平山の正しい呼び方は「おびらやま」です。アイヌ語で『川奥の崖』を意味するオピラシュマが語源のようです。
しかしながら、ここに生育する固有種のオオヒラウスユキソウやオオヒラタンポポは、学者が勘違いして名付けたのかもしれませんが、誤った名前を付けられています。
大平山には、まだ1回しか行っていません。それも急用が出来て急いで帰らざるを得なくなり充分な撮影が出来ませんでした。機会があれば是非再度行ってみたい山です。
作品の追加、変更は随時行う予定ですので、ご了解下さい。
中腹より見た大平山山頂
最終更新日;2024年7月11日
【キク科】
【ナデシコ科】
【ラン科】
(ここの並びは、あいうえお順)
以下の並びは、APGVに準拠。 探したい花の名前がわかっている場合は、トップページの【花の検索】から探すと全ての山のページが対象になります。
【ラン科】
テガタチドリ (ラン科 テガタチドリ属)
Gymnadenia conopsea (手形千鳥)
中部地方から北海道の亜高山帯から高山帯の草地に分布します。海外ではサハリン、朝鮮半島、中国からヨーロッパまで広く分布します。
テガタチドリ属はユーラシア大陸の温帯から寒帯にかけて16種が分布しますが、日本では本種のみが分布します。
中部山岳では良く見掛けた花ですが、大平山でこの花を見た時は何の花か判りませんでした。中部山岳のテガタチドリは、右下の楕円内のような花穂の中の花数が少ないものでした。
大平山のテガタチドリは、花穂にびっしりと小さな千鳥が纏わり付くように花を咲かせていました。北方に分布する株の方が、花数が増える傾向は、ハクサンチドリでも見られます。
昔はあたりまえに咲いていたこの花ですが、最近では盗掘により激減しているようです。
なお、右下の楕円内のものは南アルプスの前衛の櫛形山で撮影したものです。
【ナデシコ科】
カラフトマンテマ (ナデシコ科 マンテマ属)
Silene repens var. repens (樺太マンテマ)
国内では大平山の高山帯の石灰岩草原のみに特産する多年草ですが、海外ではカラフトなど北半球の高緯度地方に広く分布します。
この時写真を撮影した日は、急用が出来てしまい急いで下山する最中に見つけた唯一の株です。余裕なく撮った為か正面の花に葉が被ってしまい、少し残念な写真になってしまいました。左下円内に別角度から撮った写真を加えました。
カラフトマンテマの変種がアポイ岳に特産するアポイマンテマと礼文島などに分布するチシママンテマ(ver. latifolia)です。
国内では大平山にしか分布しないので大平マンテマと名付けられても良いと思うのですが、オオヒラマンテマと呼ばれるくらいなら、まだ仲間が分布するカラフトの方が良いかもしれません。
【キク科】
オオヒラタンポポ (キク科 タンポポ属)
Taraxacum ohirense (大平蒲公英)
大平山に特産する固有種のタンポポです。大平山にはオオヒラウスユキソウを見る為に行ったのですが、その時には既にこの花の花期は終わりでした。その中で、なんとか花が残っていた株です。
タンポポの仲間を見分ける最大のポイントは、総苞や外総苞片の長さや形状です。在来種のタンポポは総苞と外総苞片が合わさって外総苞片が直立しているのですが、オオヒラタンポポは、開花時に総苞外片が途中から開出し、ほぼ真横近くまで開きます。
花の写真としては超駄作ですが、唯一の良い点は花が咲き終わったものを見ると外総苞片が開いていることが判ることです。外総苞片が開くのは在来種ではオオヒラタンポポだけの特徴です。
外来種のセイヨウタンポポも外総苞片が開きますが、開花時には外総苞片が反り返って完全に垂れ下がりますので区別は容易です。
オオヒラウスユキソウもそうですが、大平山(おびらやま)に固有種として生育しているのに間違った読み方の名前をつけられて可哀想です。しかもこの花の場合は、種小名までohirenseですから可哀想過ぎます。
かつては、大平山にはオダサムタンポポ(名前は発見地である樺太島豊栄郡栄浜村小田寒に由来)が分布するとされましたが、このタンポポは現在では平地に分布するエゾタンポポ(T. venusyum)と同一種とされています。
なお、在来種で日本の高山や寒冷地に分布する在来種のタンポポは、オオヒラタンポポ以外には、ミヤマタンポポ(中部山岳)、ユウバリタンポポ(夕張岳)、クモマタンポポ(大雪山、芦別岳など)、シコタンタンポポ(T. shikotanense;室蘭から根室の太平洋側沿岸と千島)だけになりました。
エゾムカシヨモギ (キク科 アズマギク属)
Erigeron acris ver. acris (蝦夷昔蓬)
北海道と本州中部以北の亜高山帯や高山帯に分布します。海外では北半球の高山や寒地に分布します。
茎や総苞など全体にやや硬い毛が多く、上部でよく分枝します。
都会の空き地などに蔓延る北米原産の外来植物であるハルジオン(E. philadelphicus)やヒメジョオン(E. annuus)に近い仲間ですが、エゾムカシヨモギは在来植物です。似た名前の植物にヒメムカシヨモギ(E. canadensis)がありますが、これも北米原産の外来植物です。
ムカシヨモギの仲間は世界中に多数分布していますが、日本の在来種は本種のみです。
なお、エゾムカシヨモギの変種として国内にはムカシヨモギ(ver. kamtschaticus)やホソバムカシヨモギ(ver. linearifolius)が分布し、一部の県ではレッドデータブックに載っていますが、『過去に採集されたが、最近は確認されず情報不足』などの評価が多く、実存するのか不明です。
以前はムカシヨモギ属の名称でしたが、APG分類ではアズマギク属に変わりました。
ムカシヨモギとは不思議な名前ですが、この花が咲く礼文町の礼文島植物図鑑には、『ムカシヨモギとは、ヨモギの祖先という意味ではなく、中国から蓬(よもぎ)という漢字が伝来した際の誤りに由来する。』という記載がありますが、何のことかだか判りません。
実は、蓬や飛蓬という名称で古くから中国の漢詩に登場していた植物は、アカザ科のタンブルウィード(回転草)の仲間の植物なのだそうです。この植物は秋になると茎が根元から切れ、根から分離した地上部分が枯れて転がっていった先の場所で種子を落として分布を広げる植物です。日本には分布していませんが、中国から漢字が伝わった平安時代に編纂された『倭名類聚鈔』では、既に誤ってこの文字をヨモギに充てていたということです。
この為、牧野日本植物図鑑の「やなぎよもぎ (別名 むかしよもぎ)」の説明の箇所には、『漢名 蓬・飛蓬(共ニ誤用)、蓬ヲ昔ヨリよもぎニ充ツルハ極メテ非ニシテ、此レハあかざ科の草本ニテ我邦ニ産セズ。』という記載があり、やなぎよもぎ(むかしよもぎ)には漢字の表記はありません。また、牧野日本植物図鑑では草餅などに利用するキク科ヨモギ属(Artemisia)の「よもぎ」には、漢字に『艾』を使っています。
ということで、ムカシヨモギは『昔から蓬の文字を使っているが間違いだよ』ということになります。従って、現在の我々がキク科ヨモギ属のヨモギに『蓬』の文字を使うのも間違いで、牧野図鑑のように『艾』を使わないと正しくないことになり、同じヨモギ属の仲間の北岳蓬は、北岳艾のように漢字名を変えなくてはならなくなります。
但し、現在の日本では『蓬』はキク科ヨモギ属のヨモギを、『艾』はお灸に使う「もぐさ」を意味する漢字として定着しています。
なお、現代中国の辞書では『蓬』はキク科ムカシヨモギ属の植物の名称に、『艾』や『蒿』はキク科ヨモギ属の植物の名称に使われているそうです。
オオヒラウスユキソウ (キク科 ウスユキソウ属)
Leontopodium miyabeanum (大平薄雪草)
大平山と崕山の石灰岩帯に特産するエーデルワイスの仲間です。以前はハヤチネウスユキソウの変種とされていましたが、現在は独立した種として扱われています。
ハヤチネウスユキソウよりも若干大柄で、茎葉が多いのが特徴です。おそらく日本で一番大柄なエーデルワイスです。
この写真は咲き始めの株でハヤチネウスユキソウとの差異が良く判りません。全開すると白く展開する苞葉が少し後ろに反り返ります。
写真の手前にある石は石灰岩です。ハヤチネウスユキソウだと周囲にあるのは蛇紋岩です。
名前の由来は、この花が初めて発見された大平山に由来しますが、誤った名前をつけられて可哀想です。
又、近縁種には、ハヤチネウスユキソウ以外にもミヤマウスユキソウ、ホソバヒナウスユキソウ、エゾウスユキソウ、ヒメウスユキソウ及びミネウスユキソウがあります。
尚、当ページに掲載した写真の著作権は中村和人にあります。
無断転載しないで下さい。
トップページに戻る