夕張山系
夕張山系の南側に位置する夕張岳(1668m)も、超塩基性の蛇紋岩からなる山です。 夕張岳の蛇紋岩は地下深くから上昇する際に色々な岩石と混合した『メランジュ』と呼ばれる特殊な構造を形成し、国の天然記念物に指定されています。
又、超塩基性の蛇紋岩の山であることから、独自の進化を遂げた植物が多く、『ユウバリソウ』、『ユウパリコザクラ』、『ユウパリミセバヤ』、『ユウパリリンドウ』などユウバリやユウパリの名が付く固有種や稀産種が多いことでも知られています。 又、ミヤマアズマギク、チングルマ、ミヤマキンバイといったどの山でも一般的に見られる高山植物も多少独自の進化を遂げ、ユウバリの名を冠した変種扱いされることがあります。
 このページには夕張山系の崕山(キリギシヤマ;1066m)の植物も含みます。崕山は石灰岩からなる塩基性の山で、キリギシソウやオオヒラウスユキソウ、トチナイソウなどの貴重な種が分布します。

作品の追加、変更は随時行う予定ですので、ご了解下さい。
ガマ岩と夕張岳の稜線
左下の楕円内は崕山
最終更新日;2025年4月24日

【アブラナ科】 【オオバコ科】 【キク科】 【キンポウゲ科】 【サクラソウ科】 【スイカズラ科】 【スミレ科】 【ニシキギ科】 【バラ科】 【ヒガンバナ科】 【ミツガシワ科】 【ラン科】 【リンドウ科】 (ここの並びは、あいうえお順)

以下の並びは、APGVに準拠。 探したい花の名前がわかっている場合は、トップページの【花の検索】から探すと全ての山のページが対象になります。
【ラン科】
ホテイアツモリソウ (ラン科 アツモリソウ属)
Cypripedium macranthos var. hotei-atsumorianum  (布袋敦盛草)
 
崕山で撮影したものです。高山植物の本などには北海道と本州部地方の亜高山帯に特産するとありますが、本州では盗掘により激減し、まず見掛けることはありません。北海道でも見られる山は限られます。基準変種のアツモリソウ(C. macranthos var. macranthos)よりも花の色が濃くて唇弁が丸いのが特徴です。2008年の崕山モニター登山で登った時に唯一目立った花ですが、それでも15株程度でした。 礼文島には、淡いクリーム色のレブンアツモリソウが咲きます。名前の由来もレブンアツモリソウのページをご覧下さい。近縁種にはキバナノアツモリソウがあります。

【ヒガンバナ科】
シロウマアサツキ (ヒガンバナ科 ネギ属)
Allium schoenoprasum var. orientale  (白馬浅葱)
 
北アルプスの白馬岳で発見されたので、この名前があります。別名はシベリアラッキョウですが、中空の葉ですのでラッキョウというよりはネギそのものです。 図鑑などには北海道と本州中部以北の高山帯の砂礫帯に分布すると書かれていますが、国内ではこの花が見られる山はそれほど多くはありません。北海道では夕張岳と問寒別、本州は北アルプス、雨飾山、飯盛山、朝日連峰です。 海外ではサハリン、朝鮮半島、シベリア東部に分布します。夕張岳には『アサツキの原』と呼ばれる場所があり、かなり沢山咲いています。
ユウバリソウを見に訪れた時は花期には少し早かったのか写真の左側のように、まだ葱坊主状態でした。ユウパリリンドウを見に登った時は丁度花期でしたが、生憎の雨で良い写真は撮れずじまいでした。
なお、ネギ属は、従来の分類ではユリ科でしたが、APG分類ではヒガンバナ科に移りました。

【キンポウゲ科】
エゾノリュウキンカ (キンポウゲ科 リュウキンカ属)
Caltha fistulosa  (蝦夷の立金花)
 
北海道と東北(秋田・青森)の亜高山帯から高山帯の湿地に分布します。海外ではサハリンに分布します。本州で見られるリュウキンカに比べて全体に大柄で、葉に三角状の鋸歯があるのが特徴です。
夕張岳の山開きの頃は、まだ沢には残雪が結構残っており、そんな沢の中で金色に輝く花を開いています。雪渓と一緒に咲いているエゾノリュウキンカの写真を撮りたいのですが、そのような場所では泥を被っていることが多く、きれいな株はなかなか見つかりません。

エゾミヤマハンショウヅル (キンポウゲ科 センニンソウ属)
Clematis ochotensis var. ochotensis  (蝦夷深山半鐘蔓)
 
北海道に分布します。亜高山帯から高山帯の林縁や低木に巻きつきます。海外では中国東北部、サハリン、カムチャッカ半島、シベリア東部に分布します。 学名からもわかるようにクレマチスの仲間の蔓植物です。園芸植物のクレマチスの花は開花時には花弁(正しくは萼片)が全開するのに対して、満開時でも半開きの半鐘状態なのでこの名があります。 尤もこの写真のものは結構開いていて半鐘のような形状ではありませんね。 昔は火の見櫓の上部などに取り付けられた半鐘をよく見掛けたものですが、今は見掛ける機会も無くなってしまいました。
実はこの写真は長らくミヤマハンショウヅル(Clematis ochotensis var. japonica)としていたのですが、萼片からの間から見える花弁の幅が広くて萼片の縁毛の密度が低いことからエゾミヤマハンショウヅルであることに気付きました。 花色は通常紅紫色というか茶色に近い色ですが、この写真の株は何故か青紫色をしていました。夕張岳のエゾミヤマハンショウヅルが全て青紫色かというとそうでもなく、円内に示したようにハンショウヅルらしい半開きで茶色系の花も咲いていました。

チャボカラマツ (キンポウゲ科 カラマツソウ属)
Thalictrum foetidum var. glabrescens (矮鶏唐松)
 
北海道(道央)と本州(岩手県)に分布します。写真は崕山で撮影したものです。国内の分布範囲は少ないですが、海外では温帯から亜寒帯の岩礫地に広く分布します。
漢字の「矮」には、「小さい」や「短い」などの意味があり、チャボ(矮鶏)は小型のニワトリです。小柄な花を咲かせることが名前の由来のようです。小さいという意味で名前にチャボがつく植物名は他にもあります。
種小名のfoetidumは、「悪臭がある」という意味で、別名をニオイカラマツと言うそうです。小葉の表面などに微腺毛があり、ここから悪臭を放つとのことです。離れた崖に垂れ下がって咲いていたので、望遠で撮影したのが幸いして臭いを嗅がずに済みました。
キンポウゲ科の花ですので花弁はなく、萼片は楕円形で紫褐色、長さは2〜4mmです。他のカラマツソウでは萼は開花時には散って蕊だけになりますが、チャボカラマツの萼はしっかり残っています。垂れ下がっているのは雄蕊で、長さ5〜10mmで黄色い葯が付いています。

シラネアオイ (キンポウゲ科 シラネアオイ属)
Glaucidium palmatum  (白根葵)
 
北海道(日高以西)と本州(中部以北)の多雪地の湿った山地、林縁、雪田脇などに分布します。海外には分布しません。 日光の白根山で発見されたのでこの名前があります。夕張岳の森林帯の大群落は見事です。
花弁のように見えるのは萼片です。白花をシロバナシラネアオイ(f. leucanthum)と言いますが、白から淡紅紫色まで花色は個体によって微妙に変化します。夕張岳には白に近い淡い色のものが多かったです。写真ではなかなか本物の色が再現出来ない花のひとつで、撮影した株の花色はもう少し紅がかかり淡い色でした。 かつてシラネアオイはキンポウゲ科から独立して1種だけでシラネアオイ科を形成し、1科1属1種の花として知られていました。しかし、APG分類では再びキンポウゲ科に含まれました。

【バラ科】
ミヤマダイコンソウ (バラ科 ダイコンソウ属)
Geum calthifolium var. nipponicum  (深山大根草)
 
北海道、本州中部以北、四国(一部)の亜高山帯や高山帯の岩隙や岩礫地に分布します。国内のみに分布しますが、海外には基準変種の(ver. calthifolium)が北アメリカ北西部、アリューシャン列島、カムチャッカ半島に広く分布します。
生命力が強いのか、どこの高山でも見られる高山植物界の雑草みたいな花です。 登山道にも進出し、多くの登山者に踏みつけられ、ボロボロの状態でも花をつけています。 しかし、この花の写真となると碌なものがありません。 原因はいくつかあります。
 (1)どこの高山でもあまりにも一般的に見られるので、被写体としての興味が湧かない。
 (2)長い茎の先に花をつけるので、風で揺れて撮り難い。
 (3)花期が長いので、開花直後の花と汚い花後の残骸がどうしても一緒に写ってしまう。
などです。
今回、夕張岳に早い季節に登ったので咲き始めの株を写すことが出来ました。花期の長い花は咲き始めが一番です。

【ニシキギ科】
コウメバチソウ (ニシキギ科 ウメバチソウ属)
Parnassia palustris var. tenuis  (小梅鉢草)
 
北海道と本州中部以北の低山から高山の湿った湿地に分布します。海外では周北極地域に広く分布します。 ウメバチソウの高山型です。 夕張岳は高山帯にも湿地が多いので、前岳湿原から山頂直下の神社付近までの高山帯の至る所に沢山咲いていました。 コウメバチソウはウメバチソウに非常に良く似ていますが、コウメバチソウはウメバチソウに比べて仮雄蘂の裂けかたが少ない、花の直径がやや小さいといった特徴があります。 ウメバチソウとコウメバチソウの差異については、ウメバチソウのページを参照してください。
ウメバチソウ属は、以前の分類ではユキノシタ科でしたが、APG分類ではニシキギ科に移りました。

【スミレ科】
フギレキスミレ (スミレ科 スミレ属)
Viola brevistipulata subsp. hidakana ver. incisa  (斑切黄菫)
 
オオバキスミレの仲間も同定に苦しむ花のひとつです。尤も私の場合はフギレスミレと特定した理由は夕張岳で撮ったというのが一番なのですが........。
葉の縁が不規則に切れ込むのが特徴のひとつですが、この写真で一番の不規則箇所は単なる虫食いによるものです。葉に光沢があり、葉裏の脈上と縁に短毛があります。 本種は夕張山地と十勝の羽帯(はおび)にのみ分布する珍しいスミレです。海外には分布しません。
折角夕張岳に登ったのですから、特産種の『シソバキスミレ』を写さなくてはいけませんね。今回も、若干花期がずれたのかシソバキスミレは見ることが出来ませんでした。

【アブラナ科】
タカネグンバイ (アブラナ科 タカネグンバイ属)
Noccaea cochleariformis  (高嶺軍配)
 
北海道と本州の津軽半島の亜高山帯や高山帯の岩礫地に分布します。海外では北半球の寒帯に広く分布します。しかし、北海道でもこの花が見られるのは、夕張岳、礼文島、利尻山、奥尻山、大平山、幌尻岳です。 花が終わった後の果実が軍配のような形をすることが名前の由来です。 茎葉は卵形〜長楕円形でハート形に基部が張り出して茎を抱くのが特徴です。
タカネグンバイは、以前はグンバイナズナ属に含まれ、学名もThlaspi japonicumでしたが、APG分類では新たにタカネグンバイ属と分類され学名も変わりました。タカネグンバイ属は北半球と南米パタゴニアに120種ほど分布しますが、日本には本種1種のみが分布します。

【サクラソウ科】
トチナイソウ (サクラソウ科 トチナイソウ属)
Androsace chamaejasme subsp. capitata  (栃内草)
 
しょうもない写真で申し訳ありません。しかしながら私にとっては感慨深い1枚です。トチナイソウは私が山に登り始めた1981年の早池峰山から撮ってみたい花の一つでした。この花は日本国内では礼文島、ポロヌプリ山、崕山、早池峰山と千島のみに分布します。海外では、サハリン、アラスカ、カナダ北部、朝鮮半島北部に分布します。
しかしながら早池峰山には今まで6回登っていますが、見ることは出来ませんでした。高山植物監視員の方の話では登山道脇には咲いていないとのことでした。 礼文島でも絶滅状態です。ポロヌプリ山は登山道も整備されていない山ですが、僅かばかりの情報でもここでも見ることは困難なようです。
崕山でも絶滅状態だと聞いていましたが、幸運にも参加出来た2008年のモニター登山で崕山の山頂付近で見掛けた株です。遠すぎてズームレンズの望遠側でも点にしか写りませんでしたが、私にとってはお宝写真です。この花の美しい写真は、礼文町のWebサイトにある礼文島植物図鑑でご覧になれます。
和名は千島でこの花を初めて採取した栃内壬五郎氏への献名で、別名をチシマコザクラともいいます。

ユウパリコザクラ (サクラソウ科 サクラソウ属)
Primula yuparensis  (夕張小桜)
 
夕張岳固有種のサクラソウで夕張岳の蛇紋岩崩壊地に特産しますが、盗掘等により絶滅の危機に瀕しています。 2004年に最初に夕張岳に登った時には、登山道から30m位下の蛇紋岩崩壊地にしか咲いていませんでした。 最近になって地元の『ユウパリコザクラの会』などが地道に保護活動を行って来た成果が出てきています。
2010年に『ユウパリコザクラの会』会員のブログに登山道整備の為に山開き直前に登った時の情報として、登山道脇に1株咲いていたという書き込みがあったので期待して登ったのですが、残念ながらもう枯れ花状態でした。
そこで2011年には山開きの日に登りました。この年は残雪が多く急傾斜の雪渓を何ヶ所か渡る羽目になったのですが、念願のユウパリコザクラに出会うことが出来ました。 登山道の山側の方に30株程度、登山道から直接写真が撮れる位置にも5株咲いていました。そのうちの3株を紹介します。 この3株は、おそらくこの年初めて花を咲かせた株のようでした。花数も2〜4輪と少ないのですが、夕張岳回復の象徴と喜んだものです。何年か先には20輪位花を付けた大きな株に成長することの期待したものです。ところが、もう翌年(2012年)には殆ど姿を見ることが出来ませんでした。貪欲な盗掘者どもに狙われたのでしょうか。
ユウパリコザクラはユキワリソウのように根生葉が外に巻くユキワリソウ亜属のサクラソウです。

【リンドウ科】
エゾオヤマリンドウ (リンドウ科 リンドウ属)
Gentiana triflora var. japonica f. montana  (蝦夷御山竜胆)
 
和名だとオヤマリンドウの別変種か別品種のような名前ですが、学名をみれば判るようにエゾオヤマリンドウは、エゾリンドウの高山型の別品種です。 エゾリンドウよりも花数が少なく茎の先だけにつきます。また、エゾリンドウより葉の幅も広いのも特徴です。
花数も少ない上に、撮影したのは雨の日だったので花も閉じて、益々寂しい感じがする写真になってしまいました。花が開くと花冠裂片は平開します。
北海道や東北地方(山形、宮城県以北)の亜高山から高山帯の湿った草地に分布します。海外には分布しません。

ユウパリリンドウ (リンドウ科 チシマリンドウ属)
Gentianella amarella subsp. yuparensis  (夕張竜胆)
 
初秋の夕張岳の代表する花です。夕張山地、大雪山系及びニペソツ山の高山帯に特産します。今回はこの花に逢うため登ったのですが、花期には少し早かったようです。しかも折からの悪天候で折角開いた花も閉じていました。 ユウパリリンドウが属するチシマリンドウ属は日本には3種分布します。花冠の裂片の内側に細かく糸状に裂けた内片があるのがチシマリンドウ属の特徴ですが、拡大写真の花に辛うじて見えています。 白花もあるらしいのですが、今回は見ることは出来ませんでした。

エゾミヤマアケボノソウ (リンドウ科 センブリ属)
Swertia perennis subsp. cuspidata var. stenopetala  (蝦夷深山曙草)
 
ミヤマアケボノソウのうち、北海道(夕張山系・日高山脈など)に分布するのが、変種のエゾミヤマアケボノソウです。 但し、本州に分布するミヤマアケボノソウと同一とする見解もあります。
違いは花の色が淡紫色で、花が少し大きく、花冠裂片が幅少し広いのが特徴だそうです。 尤もミヤマアケボノソウ自体が花冠裂片の幅や尖り方に差異が多い植物ですから花冠の違いはあてになりません。 花色を比べると、確かに早池峰山で撮影したものに比べて色が薄いです。また、他の図鑑に載っているミヤマアケボノソウと比べても確かに色は薄いです。
現時点では別種として掲載しておきます。

【オオバコ科】
ユウバリソウ (オオバコ科 ウルップソウ属)
Lagotis takedana  (夕張草)
 
シロバナウルップソウではありません。 夕張岳のみに特産する固有種のユウバリソウです。 夕張岳山頂付近の『吹き通し』と呼ばれる蛇紋岩の崩壊地で見ることが出来ます。 ウルップソウよりも小型で白い花をつけます。
花期が非常に早い花で、夕張岳の山開きの日に登っても思うような写真は撮れません。 その年の山開きの日と残雪量で、見られるか見られないかが左右されます。 春の夕張岳には3回登りましたが、今回は残雪が多く逆に開花には少し早かったようです。1週間位後が見頃だったようです。少しでも盛りを過ぎると円内の写真のように花穂の下から枯れ始めてしまいます。 3回のうち1回は大外れで、花は完全に枯れてしまっていました。
山開きの前にも夕張岳には登ることはできます。 しかし山開きの前だと登山口までの林道が閉鎖されていますし、いざという時に泊まれる夕張岳ヒュッテも閉まっています。国道の分枝点から14kmも林道は歩きたくないし、テントまで持ち込む元気もありません。 そんな訳で、この花もなかなか美しい姿は見せてくれそうにありません。でも何回か登れば、そのうち一度くらいは美しい姿を見せてくれるのではないかと思っています。
ウルップソウ属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、その後ウルップソウ科になり、APG分類ではオオバコ科に含められました。

エゾミヤマクワガタ (オオバコ科 クワガタソウ属)
Veronica schmidtiana subsp. senanensis ver. yezoalpina  (蝦夷深山鍬形)
 
本州中部〜東北の高山に分布するミヤマクワガタの変種で、夕張山地や日高山脈などの蛇紋岩崩壊地に生育します。海外には分布しません。超塩基性の蛇紋岩の影響で茎や葉は暗紫色になると言われていますが、私が見かけた株は暗紫色の部分が多くありましたが、一部に青い葉もつけていました。 クワガタソウ属は、以前の分類ではゴマノハグサ科でしたが、APG分類ではオオバコ科に含められました。

【ミツガシワ科】
イワイチョウ (ミツガシワ科 イワイチョウ属)
Nephrophyllidium crista-galli subsp. japonicum  (岩銀杏)
 
本州(中部地方以北)と北海道の亜高山帯や高山帯のやや湿った場所に群落を作ります。海外には分布しません。別名はミズイチョウです。基準亜種は北アメリカ西北部に分布しますが、イワイチョウ属は1属1種の植物です。
夕張岳の湿地でも大きな群落を見ることが出来ます。
和名の由来は銀杏の葉に似ているということなのでしょうが、イワイチョウの葉は腎円形です。銀杏の葉といえば真ん中に切れ目があるのが特徴なので、ちょっと無理があると思っていました。ところが、最近一面に黄葉した秋のイワイチョウの群落の写真を書籍で見かけ、やっぱり銀杏としかたとえようがないと思った次第です。 植物の名前も花期だけの特徴で呼ばれている訳ではないのです。

【キク科】
ユキバヒゴタイ (キク科 トウヒレン属)
Saussurea chionophylla  (雪葉平江帯)
 
夕張岳と日高山地(戸蔦別岳・チロロ岳など)の超塩基性の岩礫地のみに特産します。稀産種ですがヒゴタイの仲間ですから、似たような花は各地の山で見かけることが出来ます。
夕張岳山頂付近の『吹き通し』と呼ばれる蛇紋岩の砂礫地には沢山咲いていましたが、花は既に盛りを過ぎて、実になり始めていました。その中でなんとか見つけた花をつけた株です。葉の裏に白い毛が密生して雪のように白いのが名前の由来です。次回はこの花の花期に登って、もう少し花をつけた株を写したいです。

ユウバリタンポポ (キク科 タンポポ属)
Taraxacum yuparence  (夕張蒲公英)
 
別名をタカネタンポポといいます。夕張岳の蛇紋岩崩壊地に特産するタンポポです。
といってもタンポポですから、どこが珍しいのかと言われましてもねえ。 総苞片に突起が無いのと、葉が羽状に全裂するのが特徴です。
現時点で、日本の高山や寒地に分布する在来種のタンポポは、ユウバリタンポポ以外には、ミヤマタンポポ(中部山岳)、オオヒラタンポポ(大平山)、クモマタンポポ(大雪山、芦別岳など)、シコタンタンポポ(T. shikotanense;室蘭から根室の太平洋側沿岸と千島)だけになりました。
平地で普遍的に見られた在来種のタンポポは帰化植物のセイヨウタンポポに殆ど駆逐されてしまい、今では高山性に限らず在来種のタンポポ総てが稀産種になっているような気がします。

ユウバリアズマギク (キク科 アズマギク属)
Erigeron thunbergii subsp. glabratus ver. glabratus f. haruoi  (夕張東菊)
 
ミヤマアズマギクの別品種で夕張岳の蛇紋岩崩壊地に特産するユウバリアズマギです。どこが違うのかと言われましても。。。。
私の場合は、『夕張岳で撮ったので』としか答えはありません。図鑑などによれは、『茎や葉などに毛が多く、根生葉の葉元が細くヘラ状』が特徴なのだそうです。 良く見れば根生葉の葉元が細くヘラ状になっていますし、縮小する前の原版の写真で見ると茎や葉の縁などには細毛が沢山あることが確認できました。
ミヤマアズマギクのところにも記載しましたが、全国のアズマギクがピンク色から青紫色に変わっています。掲載している写真は、2004年に初めて夕張岳に登った時に撮影したユウバリアズマギクです。早池峰山の昔のミヤマアズマギクと比べても少し青味がかっています。 2010年に見た時は更に青色化が進んでいました。

エゾウサギギク (キク科 ウサギギク属)
Arnica unalaschcensis var. unalaschcensis  (蝦夷兎菊)
 
本州の高山には変種のウサギギクが分布しますが、エゾウサギギクが学名上の基準変種となっています。 ウサギギクと同じ説明になりますが、根生するへら形の葉をウサギの耳に見立ててこの名前があります。 分布範囲もウサギギクとほぼ同じです。北海道の高山にはエゾウサギギク、本州の高山にはウサギギクというように明確に分布していません。エゾウサギギクは北海道に、ウサギギクは本州に多いといったところです。 一番の決め手は筒状花の筒の部分に毛が無いことだそうですが、高山植物を採取して花を分解して調べた訳ではありませんので断定出来ません。全体に茎や葉に毛が多いといった特徴があることと、撮影場所が夕張岳でという根拠でエゾウサギギクと紹介させて頂きます。
ガスの中で咲いているエゾウサギギクの群落は幻想的でした。

【スイカズラ科】
チシマヒョウタンボク (スイカズラ科 スイカズラ属)
Lonicera chamissoi  (千島瓢箪木)
 
北海道(石狩、十勝、日高地方、千島)の山地、本州(南ア)の亜高山帯の低木林に生える落葉低木です。海外ではサハリン、カムチャッカ半島、アムール、オホーツクに分布します。 左上の円内が花の拡大写真です。色は違いますが、花の形は平地に咲く同じ属のスイカズラ(L. Japonica)の花とそっくりです。 この仲間の実は液果で、熟すと液果が2個くっついて並び、ヒョウタン(瓢箪)のように見えることが名前の由来です。 中央下の円内の写真は近縁種のオオヒョウタンボク(L. tschonoskii)の実ですが、チシマヒョウタンボクも同じ形状の実を付けます。
特別な花ではないようですが、私は夕張岳で見ただけです。

ウコンウツギ (スイカズラ科 タニウツギ属)
Weigela middendorffiana  (鬱金空木)
 
国内では本州北部(岩手、青森県)と北海道、南千島の亜高山帯から高山帯分布します。海外ではサハリン、オホーツク、ウスリー、アムールに分布します。 落葉低木で、花は枝先や葉腋に2〜4個横向きにつけます。花冠は淡黄色、漏斗状筒形で長さは約4cm、先は5裂して平開します。下側裂片の中央に橙色の網状紋があります。萼は唇状で、上唇は2裂、下唇は3裂します。円内の拡大写真は大雪山で撮ったものです。
本州の山では淡紅色のタニウツギが一般的なので、初めて登った大雪山で黄色いウツギを見た時は珍しい花だと思いましたが、北海道の山では普通の花です。

尚、当ページに掲載した写真の著作権は中村和人にあります。 無断転載しないで下さい。
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